早河シリーズ最終幕【人形劇】
 ホラーファンタジーとミステリーを融合した舞台作品、これが命のマリオネットのあらすじだ。
なぎさはパンフレットを熟読した。あらすじを読むだけでたった今舞台で見た光景が鮮明に浮かんでくる。

 主役のマリオネット、シルビア役が本庄玲夏だ。
人間になりたいと祈る場面、エリックに会いたいと恋い焦がれる場面、アレンを殺すことを決意した場面、殺す場面、雪の満月の夜に砕け散る場面……どの場面も玲夏の迫真の演技に惹き込まれた。

早河も言っていたが糸で操られているように魅せる玲夏の演技は本物のマリオネットに見えた。

「いたいた、早河さん、香道さん」

 ロビーの人混みを避けて玲夏のマネージャーの山本沙織が駆け寄ってくる。

「お二人ともこちらに。楽屋で玲夏が待っています」

 沙織の誘導で早河となぎさはロビーを抜けて関係者以外立ち入り禁止の楽屋に繋がる通路に入った。

通路では舞台衣装のまま記念撮影をする出演者達とすれ違い、出演者のひとりの元宝塚女優とすれ違った時にはなぎさが歓喜していた。

 沙織が本庄玲夏と表札のある楽屋の扉をノックして開けた。

「お邪魔しまーす……」
『なぎさちゃーん。久しぶり』

楽屋に入った二人を真っ先に出迎えた声は玲夏の声ではなく、よく通る男性の声。それもなぎさには聞き慣れた声だ。

「一ノ瀬さん!」

 俳優の一ノ瀬蓮がソファーに座ってなぎさに向けてひらひらと片手を振っていた。蓮の隣には先程のカーテンコールで見たシルビアの舞台衣装とメイクそのままの玲夏がいる。

『早河さんもお久しぶりです』
『お久しぶりです。一ノ瀬さんもいらしていたんですね』

立ち上がり手を差し出した蓮と早河は握手を交わす。

『千秋楽ですからね。うちの事務所の稼ぎ頭の有終の美を観に』
「一番の稼ぎ頭が何言ってるのよ」

蓮と玲夏は半年前の事件の出来事を感じさせない、元のやりとりを交わしている。

 半年前、早河の元恋人の玲夏に届いた脅迫状。
差出人を突き止めて欲しいと玲夏が早河探偵事務所に依頼をしたことで早河は玲夏と再会、なぎさも彼女達と関わりを持った。

神戸のドラマ撮影になぎさが付き人として同行した矢先に撮影関係者が死亡する事態となり、最後は玲夏と蓮にはやりきれない結末で事件は幕を閉じた。

 あの事件直後は玲夏も蓮もマスコミに追われて仕事も自粛していたが、今では元通り二人ともテレビで見ない日はない人気ぶりだ。

「一ノ瀬さんってやっぱりイケメンですよね。何て言うか、オーラが一般人とは違う……」

蓮とは半年前の潜入調査以来、会う機会はなかった。
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