早河シリーズ最終幕【人形劇】
 居ても立ってもいられなくなり、広い部屋を横切って扉の鍵に手をかけた。

「……え? なんで……」

 鍵のロックは外れている。あとは扉を開けるだけなのに一向に扉は開かない。押しても引いても扉は微動だにしない。
ドアノブの回るガチャガチャとした金属音が虚しく聞こえた。

「はぁ?」

不動の扉を前にして思わずすっとんきょうな声が出てしまうほど、美月にとってあまりにも予想外の事態だった。

「閉じ込められた……?」

 正真正銘、ホテルの部屋に閉じ込められてしまった。鍵を開けても動かない扉、電話機のない部屋、奪われた携帯電話。

「これって……クローズドサークルじゃないっ! 閉じ込めるのは小説だけにしてよ!」

推理小説用語を口にして扉の前にへたりこむ。クローズドサークルを扱った推理小説は好きだが、実際に外部との連絡手段がない状況で閉じ込められたくはない。

 貴嶋を甘く見ていた。まんまと彼の手中に囚われた。
比奈や大学の人間を人質に取られた中で迫られた選択。あの時はそうするしか手段がなかったとしてもやはり貴嶋から逃げるべきだった。

 ピピッと何かの操作音が聞こえて美月は顔を上げた。信じられないことに押しても引いても叩いても動かなかった扉が静かに開き始めた。

「なんで……」

開かれた扉から現れたのは貴嶋ではなく三浦英司。

「三浦先生どうして……」
『そろそろ夕食の時間だ』
「……は?」

驚く美月に構わず三浦は部屋に入ってくる。美月は慌てて彼の後を追った。

「あの! どうやって入ってきたんですか? 私が鍵を開けても開かなかったのに」
『この部屋は中からは開けられない。そういう設定にしてある』

 リビングルームの大きなソファーに三浦が腰を降ろした。美月はソファーの側に立って三浦をねめつける。

「中からはって……私が逃げないように? じゃあ外からは鍵が開けられるの?」
『そういうことだ』
「私は外に出られないのにそっちは自由に入りたい放題なんですね! プライバシーの侵害じゃない。酷いっ! 最低っ……!」
『なんとでも言え。すべてキングの指示だ』

澄まし顔の三浦の態度に余計に腹が立つ。

「先生が大学の講師に来たのも私を監視するためでしょ? そうやってツンツン澄ましながら私を見張っていたんだ」

三浦と距離を置いてソファーの端に座り、美月はクッションを抱き抱えて彼に背を向けた。
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