早河シリーズ最終幕【人形劇】
 エステサロンに面した通路に三浦英司が立っていた。下から上に走る三浦の視線を感じてむず痒い。

 気恥ずかしさをもて余して美月は顔を伏せた。肩もデコルテも大胆に露出しているこのドレスでは、胸元が見えてしまいそうで落ち着かない。
ドレスのスカート丈も、太ももが見えるほど短い。考えてみればこの服装はかなり肌を露出しているのではないか?

『綺麗になったな』
「……ありがとうございます」
『馬子にも衣装か』
「なんですか! その言い方……」

顔を上げた時に見えた三浦の穏やかな微笑があの人と重なる。

(佐藤さんとは全然違うくせに佐藤さんと同じ雰囲気……同じ微笑み……)

 頬を赤らめる美月の手を取って三浦が歩き出す。ヒールのある靴を履く美月に合わせて、彼の歩調はゆっくりだった。

「どこに行くんですか? どうして私はこんな格好をしなくちゃいけないの?」
『これからパーティーがある。君のその服装はパーティーに出席するためだ』
「なんで私がパーティーに?」

 三浦に手を引かれてエレベーターに誘われる。二人きりのエレベーターが九階から上昇を始めた。
あくまでも多くを語らず無口を貫く三浦を精一杯睨み付けても、そんな些末な攻撃が彼に効かないことはわかっている。

『そんなに嫌そうな顔をするな。せっかくの綺麗な化粧とドレスが台無しだ』
「大きなお世話ですっ! どうせ馬子にも衣装ですからね」
『いや? 似合っていると思うが』

予告なく飛び出す三浦の甘い言葉に心臓が痛い。

 二十六階と二十八階のそれぞれで扉が開いて着飾った女性二人組やカップルがエレベーター内に入ってきた。男性はスーツ、女性は華やかなドレスの装いは全員がパーティーの出席者に思える。

(パーティーって何のパーティー? 三浦先生もスーツ着てるけど先生もパーティーに出るの?)

隣の女性の香水の香りがキツくて息苦しかった。三十二階で開かれた扉から真っ先にその女性と連れの女性が出ていき、次にカップルが降りる。
美月と三浦は最後にエレベーターを降りた。

 赤坂ロイヤルホテル三十二階のパーティー会場のロビーには貴嶋佑聖の姿があった。彼は長身の外国人男性と英語で会話をしている。

美月に気付いた貴嶋が手招きした。三浦が繋いでいた美月の手を離し、あちらに行けと目で合図を送った。

 純白のミニドレスで着飾った美月は、親鳥から巣立ちを迎えた小鳥のような面持ちで三浦の側を離れて貴嶋のもとに向かった。
美月の全身を見た貴嶋が満足げに頷いた。

『とても綺麗だよ。ドレスもよく似合っている』
「……ありがとう」
『さぁ行こうか、プリンセス』

 貴嶋は軽く曲げた右腕を美月に差し出す。彼女は恐る恐る、彼の右腕に左手を添えて彼の腕に掴まった。
側で一部始終を見ていた外国人男性と貴嶋が何かを話しているが、流暢な英語は美月には聞き取れない。

「キングって英語ペラペラなんだね」
『一時期アメリカに住んでいたからね』

 扉が開けられ、貴嶋のエスコートで美月はパーティー会場に連れられる。
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