早河シリーズ短編集【masquerade】
      *

 ──時は2010年3月現在に戻る。
過去の話を型り終えた矢野はレジャーシートに仰向けに寝そべった。薄紅色の桜の花びらが風に揺れている。

『これが早河さんとの出会いから情報屋になるまでの話』
「早河さんて、19歳からあんな風だったんだね。飄々としてクールで」

矢野の話を聞いていた真紀は膝を抱えてクスクス笑う。つられて矢野も笑った。

『そうそう。19歳からあんな風。愛想ないし年齢のわりに中身老けてるだろ? けど、昔の早河さんの方がもっとクールだったかも。今の方が、なぎさちゃんの影響もあって柔らかくなった』
「早河さんのこと好きだった従姉の梨乃さんはどうしてるの? 武田さんの家でも私は会ったことないよ」
『梨乃は通訳の仕事でアメリカに住んでる。結婚式には呼ぶからその時に会えるよ。早河さんが結婚したことも梨乃は知ってるけど、アメリカーンな旦那とハーフの息子溺愛だから今さら早河さんの結婚に驚きもしないって感じだった』

真紀は寝そべる矢野の顔を覗き込んだ。彼の優しい瞳には今は自分だけが映っていた。

「じゃあハルナさんが今どうしてるか知ってる?」
『お? 真紀ちゃーん。妬いてる?』
「別にっ。でも元カノでしょ。初めての彼女だって言われると……気になる」

 そっぽを向く真紀の頬は赤らんでいた。照れ屋でヤキモチ妬きな真紀が可愛くて仕方ない。こんな可愛いヤキモチなら毎日大歓迎だ。

『ハルナのその後は知らない。サユリも言わないし俺も聞かない。知ったところでどうすることもない』
「情報屋なのに調べないんだ?」
『調べなくてもいいことは調べない主義なんですよー。心配しなくても俺は真紀一筋です。俺の一途さはよぉーく知ってるだろ?』

 起き上がった矢野はヤキモチ妬きな彼女の肩を抱き寄せる。軽く耳元にキスをしてやると、口を尖らせていた真紀も自然と笑顔になっていた。

時間が経ってしなびた屋台のフライドポテトを二人で頬張りながら、真紀がふと呟いた。

「一輝って早河さんが大好きだよね」
『おいおいおいおーい! 気持ち悪い表現するなよー。俺はそっち系じゃないって! 女の子大好きで世界で一番好きな女は真紀なの!』
「だからそうじゃなくて。早河さんのためなら危険を顧《かえり》みずになんでもできちゃう、一輝はそういうところがあるのよ」

矢野はうーんと唸ってまたしなびたポテトに手を伸ばす。
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