早河シリーズ短編集【masquerade】
 有紗はメリーゴーランドの柵に手をかけてライトで輝く回転木馬の屋根を見上げた。子供の頃は遊園地に来ると必ず乗っていた大好きなメリーゴーランド。

いつの間にか乗らなくなった木馬を見つめていると、子供時代に母と一緒に乗った記憶が甦った。

「今日で早河さんとデートできるのは最後になるんじゃないかって思ってたの。だって早河さんからデートに誘われたの初めてなんだもん。絶対何かある! って思っちゃった」

有紗の斜め後ろに早河が立っている。動かない木馬が二人を見つめていた。

「その何かが嬉しい進展だったら良かったんだけどねっ。告白されたらどうしようーって。そんなことあるわけないのに」

 早河の手が有紗の肩に触れる。彼女の肩は小刻みに震えていた。
振り向いた有紗は彼に抱き付いた。

「最後のお願い聞いて欲しい」
『なんでも言え』
「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ぎゅうって抱き締めて欲しい。これでワガママは最後にする」

有紗の身体を早河の腕が包み込み、胸元で震える頭を撫でてやる。もう有紗にはこれくらいしかしてやれない。

「早河さんを好きになってよかった。早河さんのことは諦めるけど、ずっと大好きだよ」
『ありがとな。俺も有紗のこと大事に想ってる』
「だけど一番大事な人はなぎささんだよね?」

 胸元から顔を上げた有紗は涙目で微笑した。イルミネーションに照らされた彼女の顔立ちからは1年前の幼さは消え、大人っぽく綺麗になっていた。

早河も微笑み返す。知らないうちに彼女はこんなにも成長していた。嬉しくもあり寂しさも残る。

「大学生になったら、早河さんよりもイケメンな彼氏作って見せびらかしてやる! もっともっとイイオンナになって、悔しがらせてあげるからねっ。逃がした魚はおっきいんだよ?」
『ああ。惜しいことしたと思うくらい、いい女になれ』

有紗を抱き締めて彼は目を閉じた。大事な存在だからこそ嘘はつけない。

「でも早河さん、いつかジェットコースターに乗らないといけなくなるかもね」
『なんでだ?』
「子どもが生まれたらジェットコースターはパパが一緒に乗ってあげないと!」
『……そういうものか』
「そういうものでしょ。頑張れ、パパ!」
『まだパパにもなってねぇよ』

 ペロッと舌を出して顔を上げた有紗はいつもの無邪気な笑顔を浮かべていた。

 帰りの車内ではあえて言葉を交わさずに、有紗は車のラジオから流れるリクエスト曲のクリスマスソングを口ずさんでいた。
車が有紗の家の前で停まる。

「デート楽しかった。今度はなぎささんも入れて三人でお出かけしたいな」
『なぎさに伝えておく』

車を降りた有紗は早河に手を振って玄関に駆けていく。有紗が家に入ったのを見届けた早河は車を発進させた。
< 13 / 272 >

この作品をシェア

pagetop