早河シリーズ短編集【masquerade】
高校が違った二人は別々の学舎《まなびや》で多感な青春時代を過ごした。
「なぎさの家に私と莉央が泊まったり、私の家になぎさと莉央が泊まりに来たこともあるよ」
『麻衣子の家に? あいつは高校時代にすぐそこまで来ていたってことか』
隼人の実家と麻衣子の実家はとても近い距離にある。麻衣子の高校時代の1ページには寺沢莉央がいる。
「だけど莉央の家には、私達は泊まりに行ったことはないの。家の人から住所を友達に教えるなってキツく言われていたみたいで、住所も知らない。莉央がどこに住んでいたのか友達なのに知らなかったの」
今年3月に莉央が起こした事件のあらましは探偵の早河に聞いている。一段と表情に暗い影を落とす麻衣子の様子から、きっとこの先の話に莉央の暗闇の正体があると確信した。
「莉央は中学まで北海道にいたんだって。小樽《おたる》だったかな、観光地で有名な所。そこでお母さんと二人暮らしをしていて、中学生の時にお母さんが病気で亡くなったから東京のお父さんの家に引き取られたの」
『愛人の子どもだったんだよな。探偵の早河さんに聞いた』
「そうみたいだね。私も莉央が起こした事件の後になぎさから聞いたよ。あの頃から莉央の家庭事情は複雑なんだろうなって思ってた。でも莉央が話したくないことを詮索もしたくなくて……お兄さんが二人いたこともこの前初めて知ったのよ」
麻衣子の肩が震えていた。彼女はここから先の言葉をどう話せばいいか躊躇っている。
隼人は麻衣子の手に触れた。
『麻衣子、無理はするな。話せることだけ話してくれればいい』
「うん。……ここからは上野さんとなぎさに聞いた話だよ。莉央は……二人のお兄さんから性的虐待を受けていたの」
彼女の手が隼人の手を握り締める。隼人は震える麻衣子の手をもうひとつの手で包み込んだ。
麻衣子の話を聞く最中に、薄々予想はついていた。もしかしたらそうなのかもしれないと。
その事実を口にすることが麻衣子にとってどれほど辛いか、麻衣子に言わせてしまったことを今さら後悔した。
「私もなぎさも莉央の苦しみに気づけなくて何もしてあげられなかった」
それは違うと隼人は思う。莉央は麻衣子達の存在に救われていたはずだ。
「なぎさの家に私と莉央が泊まったり、私の家になぎさと莉央が泊まりに来たこともあるよ」
『麻衣子の家に? あいつは高校時代にすぐそこまで来ていたってことか』
隼人の実家と麻衣子の実家はとても近い距離にある。麻衣子の高校時代の1ページには寺沢莉央がいる。
「だけど莉央の家には、私達は泊まりに行ったことはないの。家の人から住所を友達に教えるなってキツく言われていたみたいで、住所も知らない。莉央がどこに住んでいたのか友達なのに知らなかったの」
今年3月に莉央が起こした事件のあらましは探偵の早河に聞いている。一段と表情に暗い影を落とす麻衣子の様子から、きっとこの先の話に莉央の暗闇の正体があると確信した。
「莉央は中学まで北海道にいたんだって。小樽《おたる》だったかな、観光地で有名な所。そこでお母さんと二人暮らしをしていて、中学生の時にお母さんが病気で亡くなったから東京のお父さんの家に引き取られたの」
『愛人の子どもだったんだよな。探偵の早河さんに聞いた』
「そうみたいだね。私も莉央が起こした事件の後になぎさから聞いたよ。あの頃から莉央の家庭事情は複雑なんだろうなって思ってた。でも莉央が話したくないことを詮索もしたくなくて……お兄さんが二人いたこともこの前初めて知ったのよ」
麻衣子の肩が震えていた。彼女はここから先の言葉をどう話せばいいか躊躇っている。
隼人は麻衣子の手に触れた。
『麻衣子、無理はするな。話せることだけ話してくれればいい』
「うん。……ここからは上野さんとなぎさに聞いた話だよ。莉央は……二人のお兄さんから性的虐待を受けていたの」
彼女の手が隼人の手を握り締める。隼人は震える麻衣子の手をもうひとつの手で包み込んだ。
麻衣子の話を聞く最中に、薄々予想はついていた。もしかしたらそうなのかもしれないと。
その事実を口にすることが麻衣子にとってどれほど辛いか、麻衣子に言わせてしまったことを今さら後悔した。
「私もなぎさも莉央の苦しみに気づけなくて何もしてあげられなかった」
それは違うと隼人は思う。莉央は麻衣子達の存在に救われていたはずだ。