早河シリーズ短編集【masquerade】
「高校3年の夏休みに莉央は突然いなくなった。連絡が取れなくなって、夏休みが終わっても学校に来なくて、退学届が郵送されてきたって先生は言ってた」

 7年前の2002年の夏休みの記憶で麻衣子に関して思い当たることがあった。

『あー……わかった。確か高3の夏休みの終わりは麻衣子けっこう落ち込んでたよな。夏休み最終日に俺がバイクで連れ出したの覚えてる?』

 高校3年の夏休みは隼人にとっても印象深く忘れられない夏だった。あんなにエキサイティングな夏はもう経験しないだろう。

「覚えてる。元気のない私を千葉の海まで連れていってくれたよね。帰り遅くなっちゃって、二人とも寝不足で次の日に始業式行ったの」
『そうそう。あの時、友達が失踪したって言ってたよな。その友達が寺沢莉央?』
「そうだよ。お盆辺りから莉央と連絡取れなくなっちゃって、なぎさのお兄さんが刑事さんだからお兄さんに莉央を捜してもらったんだけど、結局見つからなくて……どこかで幸せに生きていてくれたらいいなってずっと思ってた」

 ようやく7年前の夏と現在《いま》が繋がった。7年前に友人の前から姿を消した莉央は犯罪組織のクイーンとなって再び現れた。

二人の兄を殺すために。

「ねぇ隼人……莉央のこと気になるの?」
『あいつがどうして犯罪組織のクイーンなんかになったのか、それが気になるんだ』

ずきずきと痛むこの痛みは身体の痛み? 心の痛み?

「隼人なら私が言わなくてもわかってるだろうけど、美月ちゃんが悲しむことだけはしないでね。これ以上……美月ちゃんが傷付く姿は見たくないの」
『わかってる』

 わかってる? 本当に?

 この時の隼人はまだ何もわかっていなかった。
自分の心の揺らぎがどれだけ美月に不安を与えていたのか……。美月ならば許してくれる、理解してくれる、そんな思い込みはただ美月に甘えていただけだったのだ。
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