早河シリーズ短編集【masquerade】
 一方の小野田泉はカウンター席で浴びるように酒を飲んでいた。

(あーあ。つまらない。やっぱり忘年会なんて来るんじゃなかった)

 朋美に誘われて仕方なく参加した忘年会だ。朋美イチオシの情報工学科のポストドクター、渡辺亮は女子学生に囲まれてハーレム状態。

同じく情報工学科エースの白井直澄はお目当ての女子がいるようで、ずっとその女子学生の側を離れない。

 テーブル席も女子の集まり、男子と女子の組み合わせのテーブルが出来上がり、忘年会とは名ばかりの女子会や合コンと化している。

 泉も朋美や親しい院生仲間と酒を酌み交わしていたのだが、酒や料理を取りに行ったまま誰も席に戻ってこない。泉だけがカウンター席を動かずひとり飲みを始めていた。

女の甲高い笑い声に苛つきが募る。

(どいつもこいつも楽しそうな顔しやがって。そりゃあね? 私だって楽しくないこともないよ。気が進まなかったけど皆と飲むのは楽しいし……)

 手洗いに立った泉は通路で抱き合う男女の横を無言で通り過ぎる。この忘年会でデキちゃった二人だと想像がついた。

「はぁ……なんなんだよっ! イチャつくなら表出やがれ!」

小声でぼやいてトイレに入った。渡辺亮を囲む女子の群れもその中心にいる渡辺も、逆ハーレムでちやほやされる女も、忘年会ついでに合コンを始める学生達も、何もかもが気に入らない。

 ポストドクターの渡辺亮は忘年会の乾杯の挨拶をしていた。彼の顔をまじまじと見たのはそれっきりだ。

渡辺は朋美が騒ぐのも頷ける美形だった。情報工学科と言うから堅いイメージのインテリを予想していたのに、泉の予想は良い意味で裏切られた。

(確かに目の保養にはなった。渡辺先生は正真正銘のイケメンだ。うん……。かっこよかった……)

 困ったことに渡辺は泉のタイプだった。でも目の保養だけで充分。しばらく男はこりごりだ。

気に入らないのは渡辺に群がる女子学生。漏れ聞こえる会話からは、今夜あわよくば渡辺と深い仲になろうと必死でアピールするきゃぴきゃぴした女ばかりで、その女達がダイキの浮気相手と重なり苛つきが溜まる。

「あー……飲み過ぎた」

 胃の奥が気持ち悪い。怒りに任せて何杯も飲んだから悪酔いしたらしい。
そろそろ忘年会もお開きの時間。おそらくこれから二次会、三次会と向かう者達もいるだろう。

(まずい。これはまずい。吐く……)

気持ち悪さに堪えきれなくなった泉はトイレの個室で口元を押さえた。
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