早河シリーズ短編集【masquerade】
吸殻を捨てて綺麗にした灰皿と、今度は隼人が持参したビール瓶を持ってリビングに戻った。
『本当のところはどうだったんだ? その小野田って女と何もなかったのか?』
『隼人はどうでもいいことに鼻が利くよな。はいはい、俺の負け』
ビール瓶の栓を抜いて二人のグラスにビールが注がれる。酔った勢いでもないと恋愛の話をするのが気恥ずかしい年齢になっていた。
小野田泉を運び入れた夜のことを渡辺は回想する。
『小野田泉をベッドに寝かせた時、キスしそうになった』
『やっぱりな。不能じゃなかっただけ安心した。で、結局しなかったのか』
『しなかったって言うか、できなかった。あの子かなりピュアっつーか、恋愛慣れしてないっつーか……寝言で浮気された元カレの名前呟いてたんだ。そんな子に寝てる隙に何かできるわけねぇよ』
あの夜の自分はどうかしていた。泉にキスをしたいと思った理由も、寝言で元カレの名前を呟かれて動揺した心も、自分に対して戸惑いしかなかった。
『俺も酔っていて冷静さを欠いてた。寝込み襲えば後々まずいことになるし、それこそ小野田泉を狙ってた学生達と同類になっちまう。初めて会った女にキスしたいと思うことが、どうかしていたんだ』
『じゃあどうして、鈴華に脅迫された時に小野田泉を守った? 一時の気の迷い、しかも未遂で終わったことなら鈴華の脅しに屈してまで小野田泉を守る必要ないだろ?』
渡辺は舌打ちしてビールを飲み干し、カーペットの上に大の字に寝転んだ。
『自分でもわかんねぇよ』
『小学生でも簡単にわかることだぞ』
今は上体を起こしてテーブルに頬杖をつく隼人が横たわる渡辺を見下ろす。せめてもの抵抗に、目元を腕で覆って表情を読まれないように足掻いても、隼人にはきっと内心の動揺を見抜かれている。
『亮。もっとバカになれ』
隼人の一言が心の奥に突き刺さった。
バカになる……バカになってがむしゃらに何かを追い求めていた日々は遠い昔。
どうせ手に入らないものだと最初から諦める癖がいつの間にかついていた。もっとバカになれば手に入れられた大切なものが、きっと、沢山あったのに。
『本当のところはどうだったんだ? その小野田って女と何もなかったのか?』
『隼人はどうでもいいことに鼻が利くよな。はいはい、俺の負け』
ビール瓶の栓を抜いて二人のグラスにビールが注がれる。酔った勢いでもないと恋愛の話をするのが気恥ずかしい年齢になっていた。
小野田泉を運び入れた夜のことを渡辺は回想する。
『小野田泉をベッドに寝かせた時、キスしそうになった』
『やっぱりな。不能じゃなかっただけ安心した。で、結局しなかったのか』
『しなかったって言うか、できなかった。あの子かなりピュアっつーか、恋愛慣れしてないっつーか……寝言で浮気された元カレの名前呟いてたんだ。そんな子に寝てる隙に何かできるわけねぇよ』
あの夜の自分はどうかしていた。泉にキスをしたいと思った理由も、寝言で元カレの名前を呟かれて動揺した心も、自分に対して戸惑いしかなかった。
『俺も酔っていて冷静さを欠いてた。寝込み襲えば後々まずいことになるし、それこそ小野田泉を狙ってた学生達と同類になっちまう。初めて会った女にキスしたいと思うことが、どうかしていたんだ』
『じゃあどうして、鈴華に脅迫された時に小野田泉を守った? 一時の気の迷い、しかも未遂で終わったことなら鈴華の脅しに屈してまで小野田泉を守る必要ないだろ?』
渡辺は舌打ちしてビールを飲み干し、カーペットの上に大の字に寝転んだ。
『自分でもわかんねぇよ』
『小学生でも簡単にわかることだぞ』
今は上体を起こしてテーブルに頬杖をつく隼人が横たわる渡辺を見下ろす。せめてもの抵抗に、目元を腕で覆って表情を読まれないように足掻いても、隼人にはきっと内心の動揺を見抜かれている。
『亮。もっとバカになれ』
隼人の一言が心の奥に突き刺さった。
バカになる……バカになってがむしゃらに何かを追い求めていた日々は遠い昔。
どうせ手に入らないものだと最初から諦める癖がいつの間にかついていた。もっとバカになれば手に入れられた大切なものが、きっと、沢山あったのに。