早河シリーズ完結編【魔術師】
「篠山恵子と自殺した議員秘書の関係も調べればすぐにわかりました。篠山恵子は兄の自殺の件で佐藤を恨んでいた。佐藤を潰すには、佐藤に恨みを抱く人間を利用すればいい。篠山恵子が佐藤を殺してくれるなら私には都合が良かったんです。結局は、早河が佐藤を引き入れたおかげで失敗しましたけどね。やっぱり早河はどこまでも邪魔な男でした」
恵子の元恋人の上野に突き付けられた残酷な真実。おそらく佐藤を恨んでいる者ならば、誰でもよかったのだろう。
やりきれずに上野は椅子から腰を上げた。
『小山。後を頼む』
「はい」
上野と代わって今度は真紀が千秋の対面に腰掛けた。彼女は机を挟んで千秋と向かい合う。
「あなたは貴嶋を愛しているの?」
「……は?」
千秋の顔が歪む。真紀は、先ほど感じた千秋の感情の揺らぎの正体に気付いていた。
「美月ちゃんのことを“あの女”と言った時の土屋さんの顔、すごく悔しそうだった。あれは嫉妬じゃない?」
「嫉妬……?」
「貴嶋は美月ちゃんに会うために脱獄した。あなたはそれが気に入らなかった。違う?」
千秋は無言で視線を宙に彷徨《さまよ》わせる。彼女は答えを必死で探していた。
「……私はキングを慕っていました。けれどそれは恋愛感情からではありません。キングには失望したんです。キングが脱獄した目的はカオスを復活させることではなかった。たかがひとりの女に会うために……裏切られた気分でしたよ。キングはそんな浮わついた人間じゃない。絶対的な王は孤高の存在でなければならない」
それが独りよがりな理想像だと千秋は気付かない。
「早河仁と木村美月。キングを弱くしたのはあの二人です。帝王には友達も恋人も必要ない。あの二人が邪魔だった……」
「だから早河さんの命も狙い、彼の娘を誘拐したの?」
「娘の誘拐は早河の動きを分散させることが狙いでした。娘が誘拐されたとなれば、早河はキングを追うどころではなくなり、早河の視点はこちらから逸れる。篠山恵子も木村美月に復讐したがっていたから、早河の娘と木村美月の息子を一緒に誘拐したんです。でもクイーンの遺品から木犀館の居場所を突き止められるとは思いませんでしたけどね。クイーンの存在は完全に盲点でした」
篠山恵子は木村隼人の存在が誤算だと語っていたが、千秋にとっては9年前に貴嶋に殺されたカオスのクイーン、寺沢莉央が最大の誤算だったようだ。
莉央の遺品が早河の妻のなぎさに渡っていることを千秋は知らない。
恵子の元恋人の上野に突き付けられた残酷な真実。おそらく佐藤を恨んでいる者ならば、誰でもよかったのだろう。
やりきれずに上野は椅子から腰を上げた。
『小山。後を頼む』
「はい」
上野と代わって今度は真紀が千秋の対面に腰掛けた。彼女は机を挟んで千秋と向かい合う。
「あなたは貴嶋を愛しているの?」
「……は?」
千秋の顔が歪む。真紀は、先ほど感じた千秋の感情の揺らぎの正体に気付いていた。
「美月ちゃんのことを“あの女”と言った時の土屋さんの顔、すごく悔しそうだった。あれは嫉妬じゃない?」
「嫉妬……?」
「貴嶋は美月ちゃんに会うために脱獄した。あなたはそれが気に入らなかった。違う?」
千秋は無言で視線を宙に彷徨《さまよ》わせる。彼女は答えを必死で探していた。
「……私はキングを慕っていました。けれどそれは恋愛感情からではありません。キングには失望したんです。キングが脱獄した目的はカオスを復活させることではなかった。たかがひとりの女に会うために……裏切られた気分でしたよ。キングはそんな浮わついた人間じゃない。絶対的な王は孤高の存在でなければならない」
それが独りよがりな理想像だと千秋は気付かない。
「早河仁と木村美月。キングを弱くしたのはあの二人です。帝王には友達も恋人も必要ない。あの二人が邪魔だった……」
「だから早河さんの命も狙い、彼の娘を誘拐したの?」
「娘の誘拐は早河の動きを分散させることが狙いでした。娘が誘拐されたとなれば、早河はキングを追うどころではなくなり、早河の視点はこちらから逸れる。篠山恵子も木村美月に復讐したがっていたから、早河の娘と木村美月の息子を一緒に誘拐したんです。でもクイーンの遺品から木犀館の居場所を突き止められるとは思いませんでしたけどね。クイーンの存在は完全に盲点でした」
篠山恵子は木村隼人の存在が誤算だと語っていたが、千秋にとっては9年前に貴嶋に殺されたカオスのクイーン、寺沢莉央が最大の誤算だったようだ。
莉央の遺品が早河の妻のなぎさに渡っていることを千秋は知らない。