早河シリーズ完結編【魔術師】
 貴嶋の熱烈な信奉者である彼らが次世代のカオスを名乗り、貴嶋の復活を目論む理由には合点がいく。しかし上野にはどうしても解せない点があった。

『なぜ計画に篠山恵子を巻き込んだ?』

貴嶋の信奉者ではない恵子を計画に加えた理由が知りたかった。何故、恵子が選ばれてしまったのか。
千秋はしばしの沈黙を続け、溜息をついて答えた。

「佐藤瞬を排除するためです。9年前のカオス壊滅の捜査資料を見た時に私は疑問を持ちました。確かに三浦英司と名乗る男が当時カオスにいたはずなのに、三浦に関する記述は不明な点が多い。キングもスパイダーも三浦のことは一切語らない。記録にはデータベースにある佐藤のDNAと三浦のDNAを照合しても一致しなかったとありました」

 上野の後方で千秋の話を聞いていた真紀はその時のことをよく覚えている。貴嶋の逮捕後、真紀は早河の指示で三浦英司のDNAとデータベースに保管されている佐藤瞬のDNAを照合したが、結果は不一致だった。

「それから気になって、自作の解析ソフトを使って佐藤のDNAデータを調べたんです。プログラムには改竄《かいざん》の形跡がありました。佐藤のデータは別人のデータと入れ換えられていた。そんなことをするのはスパイダーしかいない。キングを脱獄させた時に佐藤のDNAデータの改竄をキングに問い質しました」

佐藤の生存を問われた貴嶋は無言で微笑むだけだった。貴嶋の態度で佐藤の生存を確信した千秋は、佐藤の存在が後々の計画の妨げになると危惧した。

「佐藤瞬もキングを崇拝する人間にとっては、ある種の有名人でした。ネットに流れる真偽不明な情報には佐藤が凄腕の情報屋であったことも書き込まれていましたが、佐藤の情報は不確かなものが多く、あの男の能力がどの程度のものか見当がつかなかった。でも……」

 一転して歯切れの悪くなった千秋は言葉を切って視線を落とす。

「佐藤は、“あの女”の弱点になる。佐藤の弱点もあの女です。だから佐藤を潰すならあの女が使えると思って……」
『あの女とは木村美月のことか?』
「……そうです」

美月を“あの女”と口走った時のみ、彼女の抑揚のない言葉に感情が現れた。
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