早河シリーズ完結編【魔術師】
 松田のレモネードが運ばれてきた。カフェではコーヒーを選びがちな彼が冷たいレモネードを所望するとは、よほど喉が渇いているらしい。
レモネードを喉に通して、松田は居住まいを正した。

『それで話って言うのはね……』

松田の言葉に静香の緊張も高まる。心臓の音が外に漏れ聞こえてしまうのではと心配になるくらい。
咳払いした後、彼は口を開いた。

『俺と付き合ってください』

 静香は放心した表情で目を泳がせている。彼女の目にはみるみる涙が溜まり、手で顔を覆って泣き出した。

『えっ……静香ちゃん?』
「ごめんなさいっ! ……よかったぁ」

ごめんなさいとよかった。意味の通じない言葉の並びに松田は混乱している。さっきから店員と客の視線が突き刺さって痛い。

「木村さんが退院する前に言ってくれたんです。松田さんを信じて待っていてって」
『隼人くんがそんなことを?』
「はい。松田さんは木村さんの奥さんが好きなんですよね?」
『ああ……知ってたの?』

 静香は頷いた。要するに、松田の知らないところで隼人と静香の間で松田に関するやりとりがあったのだ。

さりげなく静香にフォローを入れてくれる隼人にはやはり敵わない。木村隼人はどこまでも気遣いの人だ。

「木村さんの奥さんのことはもういいんですか?」
『それはケジメついた。ほとんど隼人くんのおかげなんだけどね。だから静香ちゃんに告白したんだよ。……返事、まだもらってないような気がするけど?』

顔を赤くする静香の反応を見れば返事は聞かなくてもわかる。本当にわかりやすい女性だ。

「私も……松田さんが好き、です」

 照れてうつむく静香を可愛いと思った。ずっと側にいて欲しい。

 巡り会えた愛しい人
 彼も宝物を見つけたよ
 きらきらした、かけがえのないもの

 人魚姫は悲恋の物語じゃない。ラストシーンの人魚姫は風の聖霊となって、王子様の幸せを笑顔で見守っている。

彼と彼女の物語。これは悲恋の物語じゃない。
ラストシーンは笑顔でおしまい。
二人がいつまでも幸せでありますように。

 きらきらと煌めく桜色の日差しの下で
 永遠に続く幸せな夢を見よう



episode1.END
→episode2.父親奮闘記 に続く
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