早河シリーズ完結編【魔術師】
『まぁ紆余曲折ありながらも、こうして俺と泉は夫婦になりました。結婚式の準備もぼちぼち進めていきます。仕事の方は4月から星城大学の講師になります。仕事にも益々精進し、いつまでもラブラブイチャイチャな木村夫妻を見習って、よき家庭を築いていこうと思います。今日は集まってくれてありがとう』
隼人への小さな反撃をしつつ、渡辺はスピーチを締めくくった。隼人は目を潤ませる麻衣子を見て苦笑する。
『おい麻衣子。なんで泣いてるんだよ』
「だってあの悪ガキだった亮がこんな立派な挨拶するようになって……ああもぅ……」
『麻衣子は俺の母親かよ』
渡辺の一言で一同の間に笑いが起きた。涙腺を緩ませる麻衣子の下腹部はふっくらしている。
麻衣子も一昨年に結婚した夫との間に今春には第一子が誕生する。
『これで、このメンバーでの独身はヒロだけになったな』
『俺は結婚は当分ないよ。まず相手がいない』
渡辺が松田に話を向けたが、松田は肩をすくめてかぶりを振った。隼人が話に加わる。
『あの彼女と別れたのか?』
『アメリカ出張から帰って来てすぐに振られた。仕事ばかりして私のことはどうでもいいんでしょって言われてね。どうでもいいなら、日本に戻ったその日に会いに行かないのにさ』
「えー。ヒロくん私と同じ匂いを感じる」
大学院生時代に研究に夢中になっていて元カレに浮気された経験を持つ泉は、自らの過去と重ねて大きく頷いた。
渡辺夫妻の結婚を祝うパーティーは和やかに進み、ノンアルコールのシャンパングラスと斗真のオレンジジュースのグラスが乾杯する。
『俺も隼人も結婚して、高校生だった美月ちゃんが二児の母で麻衣子も母親になって、時の流れは速いな』
『そうだな。あれから12年か……』
渡辺の言葉に隼人が同調した。部屋の片隅では座布団をベッド代わりにして眠る美夢の傍らに美月が寄り添い、麻衣子と泉が斗真と遊んでいた。
12年前の2006年8月に静岡で起きた連続殺人事件。あの真夏の白昼夢から今年で12年。
終わりのない始まりのプロローグ。永遠と絶望の一夜に流れるセレナーデは今も彼女の為の旋律を奏でている。
隼人の視線に気付いた美月が顔を上げた。
真実と秘密と恋と愛。
彼らは二人にしかわからない秘密を二人にしか通じない言葉で紡いで、絡み合う視線の糸に閉じ込めた。
第一章 END
→第二章 月夜烏 に続く
隼人への小さな反撃をしつつ、渡辺はスピーチを締めくくった。隼人は目を潤ませる麻衣子を見て苦笑する。
『おい麻衣子。なんで泣いてるんだよ』
「だってあの悪ガキだった亮がこんな立派な挨拶するようになって……ああもぅ……」
『麻衣子は俺の母親かよ』
渡辺の一言で一同の間に笑いが起きた。涙腺を緩ませる麻衣子の下腹部はふっくらしている。
麻衣子も一昨年に結婚した夫との間に今春には第一子が誕生する。
『これで、このメンバーでの独身はヒロだけになったな』
『俺は結婚は当分ないよ。まず相手がいない』
渡辺が松田に話を向けたが、松田は肩をすくめてかぶりを振った。隼人が話に加わる。
『あの彼女と別れたのか?』
『アメリカ出張から帰って来てすぐに振られた。仕事ばかりして私のことはどうでもいいんでしょって言われてね。どうでもいいなら、日本に戻ったその日に会いに行かないのにさ』
「えー。ヒロくん私と同じ匂いを感じる」
大学院生時代に研究に夢中になっていて元カレに浮気された経験を持つ泉は、自らの過去と重ねて大きく頷いた。
渡辺夫妻の結婚を祝うパーティーは和やかに進み、ノンアルコールのシャンパングラスと斗真のオレンジジュースのグラスが乾杯する。
『俺も隼人も結婚して、高校生だった美月ちゃんが二児の母で麻衣子も母親になって、時の流れは速いな』
『そうだな。あれから12年か……』
渡辺の言葉に隼人が同調した。部屋の片隅では座布団をベッド代わりにして眠る美夢の傍らに美月が寄り添い、麻衣子と泉が斗真と遊んでいた。
12年前の2006年8月に静岡で起きた連続殺人事件。あの真夏の白昼夢から今年で12年。
終わりのない始まりのプロローグ。永遠と絶望の一夜に流れるセレナーデは今も彼女の為の旋律を奏でている。
隼人の視線に気付いた美月が顔を上げた。
真実と秘密と恋と愛。
彼らは二人にしかわからない秘密を二人にしか通じない言葉で紡いで、絡み合う視線の糸に閉じ込めた。
第一章 END
→第二章 月夜烏 に続く