早河シリーズ完結編【魔術師】
街角で口論する隼人と佐藤を、通りすがりのOLがちらちら見ていた。
『どれだけ責められても言い訳はしない。君にどう思われても構わない。今の俺の目的は、美月を守るためにキングの計画を破綻させることだ』
『キングは昔の上司だろ。あんたがキングに寝返らない保証はない』
『信用はしてくれなくて結構だ。だがこれだけは言っておく。キングは君の命を狙ってくるだろう』
外していたサングラスが再び佐藤の目元を覆った。色の濃いサングラスのせいで余計に佐藤の感情が読み取れない。
『俺が美月の旦那だからか』
『それだけじゃない。クイーンは君を慕っていた。それはキングも気付いている』
9年前に貴嶋に殺された犯罪組織カオスのクイーン、寺沢莉央とは不思議な巡り合わせの縁で結ばれていた。あの頃、確かに隼人は莉央に惹かれていた。
『莉央とやましいことはねぇよ。……ってあんたに言い訳しても意味ないな』
『君とクイーンの関係が本当はどうであれ、クイーンが君に惹かれていたのは事実だ。9年前に俺は彼女の側にいて見てきたが、クイーンは君に惚れていたよ』
想い人に言えなかった言葉は莉央も同じ。隼人と莉央は、どこまでも似た者同士の二人だった。
『美月と莉央か。キングにしてみれば俺はどちらにしろ憎い邪魔者ってわけね』
『念のため用心した方がいい』
『あんたは大丈夫なのか?』
踵を返す佐藤の背中に問いかける。足を止めた佐藤はこちらを振り向かない。
『今のあんたは昔の上司だったキングを裏切ってる。やってることはあの時の莉央と同じ。莉央はあんな形で死んじまったんだ。あんただって命が危ないんじゃないか?』
『俺は12年前に一度死んでいる。今も死んでるも同然のこの身に何があろうと構わない』
『今度こそあんたが死ねば美月が傷付く。俺はあんたのことは許せねぇよ。けど美月を傷付けるのはもっと許さない。次は生きて罪を償えよ。……美月のために』
顔だけを後ろに向けた佐藤の口元が微笑んで見えたのは、目の錯覚かもしれない。黒いロングコートの背中が小さくなってやがて見えなくなった。
(スカした面しやがって。やっぱり一発殴ればよかった)
嫌になるほどあの男には勝ち目がない。所詮は民間人の自分には、佐藤のように貴嶋と戦う術を持ち合わせていない。
9年前にも、莉央に二度も命を助けられた。いつも誰かに助けられてばかりだ。
ネガティブになる思考をどうにか切り替えて隼人は芝公園駅までの道を進む。落ち込んでいる暇はない。
今できることは美月の側にいること。美月の夫として、斗真の父親としてできることをするしかない。
地下に降りる前に美月に電話をした。隼人の声を聞いた途端に泣き出した美月を優しくなだめて、彼女の心細さを少しでも埋めてやる。
{隼人……早く帰って来て……}
『すぐに帰るから。待ってて』
これくらいしかできなくて、でもこれができるのは自分だけで。
美月と出会って12年。ずっとそうしてきた。いつも彼女の心の傷に寄り添ってきた。
佐藤が生きていてもそれは変わらない。
左手薬指の指輪は愛の証。何があろうとも必ず君を守る。
第二章 END
→第三章 紅蓮 に続く
『どれだけ責められても言い訳はしない。君にどう思われても構わない。今の俺の目的は、美月を守るためにキングの計画を破綻させることだ』
『キングは昔の上司だろ。あんたがキングに寝返らない保証はない』
『信用はしてくれなくて結構だ。だがこれだけは言っておく。キングは君の命を狙ってくるだろう』
外していたサングラスが再び佐藤の目元を覆った。色の濃いサングラスのせいで余計に佐藤の感情が読み取れない。
『俺が美月の旦那だからか』
『それだけじゃない。クイーンは君を慕っていた。それはキングも気付いている』
9年前に貴嶋に殺された犯罪組織カオスのクイーン、寺沢莉央とは不思議な巡り合わせの縁で結ばれていた。あの頃、確かに隼人は莉央に惹かれていた。
『莉央とやましいことはねぇよ。……ってあんたに言い訳しても意味ないな』
『君とクイーンの関係が本当はどうであれ、クイーンが君に惹かれていたのは事実だ。9年前に俺は彼女の側にいて見てきたが、クイーンは君に惚れていたよ』
想い人に言えなかった言葉は莉央も同じ。隼人と莉央は、どこまでも似た者同士の二人だった。
『美月と莉央か。キングにしてみれば俺はどちらにしろ憎い邪魔者ってわけね』
『念のため用心した方がいい』
『あんたは大丈夫なのか?』
踵を返す佐藤の背中に問いかける。足を止めた佐藤はこちらを振り向かない。
『今のあんたは昔の上司だったキングを裏切ってる。やってることはあの時の莉央と同じ。莉央はあんな形で死んじまったんだ。あんただって命が危ないんじゃないか?』
『俺は12年前に一度死んでいる。今も死んでるも同然のこの身に何があろうと構わない』
『今度こそあんたが死ねば美月が傷付く。俺はあんたのことは許せねぇよ。けど美月を傷付けるのはもっと許さない。次は生きて罪を償えよ。……美月のために』
顔だけを後ろに向けた佐藤の口元が微笑んで見えたのは、目の錯覚かもしれない。黒いロングコートの背中が小さくなってやがて見えなくなった。
(スカした面しやがって。やっぱり一発殴ればよかった)
嫌になるほどあの男には勝ち目がない。所詮は民間人の自分には、佐藤のように貴嶋と戦う術を持ち合わせていない。
9年前にも、莉央に二度も命を助けられた。いつも誰かに助けられてばかりだ。
ネガティブになる思考をどうにか切り替えて隼人は芝公園駅までの道を進む。落ち込んでいる暇はない。
今できることは美月の側にいること。美月の夫として、斗真の父親としてできることをするしかない。
地下に降りる前に美月に電話をした。隼人の声を聞いた途端に泣き出した美月を優しくなだめて、彼女の心細さを少しでも埋めてやる。
{隼人……早く帰って来て……}
『すぐに帰るから。待ってて』
これくらいしかできなくて、でもこれができるのは自分だけで。
美月と出会って12年。ずっとそうしてきた。いつも彼女の心の傷に寄り添ってきた。
佐藤が生きていてもそれは変わらない。
左手薬指の指輪は愛の証。何があろうとも必ず君を守る。
第二章 END
→第三章 紅蓮 に続く