早河シリーズ完結編【魔術師】
副主任の吉川に後を託して隼人はJSホールディングスを出た。地下鉄の芝公園駅に向かう隼人の前に、黒いコートを着た長身の男が立ち塞がる。
こんな昼間のオフィス街に存在するには異質な雰囲気を纏う男は、かけていたサングラスを外した。
『あんたは……』
『久しぶりだな。木村くん』
二人の男の再会は12年ぶりだ。
“あの男”が生きていると美月に聞いてはいても、実際にその姿を目にした隼人は驚愕でしばし言葉を失った。
冷たい北風が二人の間を切り裂く。
『佐藤……。お前よく平然と俺の前に現れることができたな』
『恨み辛みは後で聞く。話がある』
12年を経てもクールな物言いは変わらない佐藤の態度が気に入らない。一回り年上の佐藤の前では、どう足掻いても太刀打ちできない劣等感を抱えて隼人は舌打ちした。
『悪いが急いでる。手短に願えるかな』
『君の息子が誘拐されたんだろう』
『……知ってたのか』
『すまない』
佐藤が隼人に頭を下げた。いきなり謝罪をされても困るだけだ。隼人は無言で佐藤を見下ろす。
佐藤の髪には白髪が少し混ざっていた。あれから12年、互いに歳をとって老けるのも当然だ。
『俺はキングの居所を探っていた。もっと早くキングを見つけていれば……。君の子どもの誘拐を阻止できなかった』
『あんたがキングの部下じゃなくなったって話は本当らしいな。美月に聞いた時は半信半疑だったが』
微笑も嘲笑もない無表情な佐藤の顔を、12年溜めていた怒りや憤りの感情を込めて殴ってやりたかった。けれど沸き上がる怒りも嫉妬もここで吐き出してはいけない。
『警察に俺が生きてることを黙っていたんだな』
『あんたのためじゃねぇよ。美月のためだ。こうなった以上は、あんたのことを警察に言うしかなくなっちまったけどな』
隼人は己の負の感情を封じ込めて佐藤と向き合った。
『今のあんたは俺らの敵か味方か、どちらだ?』
『俺は美月を守りたい。それだけだ』
隼人の妻を気安く呼び捨てにする男。呼び捨てにした名前に込められた男の想いは色褪せていなかった。
二人の男は美月が愛した男、美月に愛された男、美月に愛されている男。
『ふざけるなよ。今頃のこのこ現れて美月を守る? じゃあなんで12年前に美月を守ってやらなかった? あんたがいなくなったあの時、あいつがどんな想いでいたと思う? 美月は心を壊したんだぞ』
落ち着かなければいけないと思っても昂る神経に作用して隼人の口調も荒くなる。
こんな昼間のオフィス街に存在するには異質な雰囲気を纏う男は、かけていたサングラスを外した。
『あんたは……』
『久しぶりだな。木村くん』
二人の男の再会は12年ぶりだ。
“あの男”が生きていると美月に聞いてはいても、実際にその姿を目にした隼人は驚愕でしばし言葉を失った。
冷たい北風が二人の間を切り裂く。
『佐藤……。お前よく平然と俺の前に現れることができたな』
『恨み辛みは後で聞く。話がある』
12年を経てもクールな物言いは変わらない佐藤の態度が気に入らない。一回り年上の佐藤の前では、どう足掻いても太刀打ちできない劣等感を抱えて隼人は舌打ちした。
『悪いが急いでる。手短に願えるかな』
『君の息子が誘拐されたんだろう』
『……知ってたのか』
『すまない』
佐藤が隼人に頭を下げた。いきなり謝罪をされても困るだけだ。隼人は無言で佐藤を見下ろす。
佐藤の髪には白髪が少し混ざっていた。あれから12年、互いに歳をとって老けるのも当然だ。
『俺はキングの居所を探っていた。もっと早くキングを見つけていれば……。君の子どもの誘拐を阻止できなかった』
『あんたがキングの部下じゃなくなったって話は本当らしいな。美月に聞いた時は半信半疑だったが』
微笑も嘲笑もない無表情な佐藤の顔を、12年溜めていた怒りや憤りの感情を込めて殴ってやりたかった。けれど沸き上がる怒りも嫉妬もここで吐き出してはいけない。
『警察に俺が生きてることを黙っていたんだな』
『あんたのためじゃねぇよ。美月のためだ。こうなった以上は、あんたのことを警察に言うしかなくなっちまったけどな』
隼人は己の負の感情を封じ込めて佐藤と向き合った。
『今のあんたは俺らの敵か味方か、どちらだ?』
『俺は美月を守りたい。それだけだ』
隼人の妻を気安く呼び捨てにする男。呼び捨てにした名前に込められた男の想いは色褪せていなかった。
二人の男は美月が愛した男、美月に愛された男、美月に愛されている男。
『ふざけるなよ。今頃のこのこ現れて美月を守る? じゃあなんで12年前に美月を守ってやらなかった? あんたがいなくなったあの時、あいつがどんな想いでいたと思う? 美月は心を壊したんだぞ』
落ち着かなければいけないと思っても昂る神経に作用して隼人の口調も荒くなる。