早河シリーズ完結編【魔術師】
『俺は貴嶋を捕まえたい、お前は木村美月を守りたい。俺とお前の利害が一致していると考えていいんだな?』
{好きに解釈してください。それでは、また}
まだ問い質したいことがある早河の質疑を打ち切って、佐藤は通話を終わらせた。せっかちな男だ。
早河は広告の裏に走り書きした己の文字に今一度目を通した。
『シトリー、べリアル、ダンタリオン……』
名前を声に出して改めて感じる違和感。聞き慣れない不思議なカタカナの羅列。
9年前のカオスにいた人間の通称は佐藤がラストクロウ、続いてスコーピオン、スパイダー、ケルベロス。通称としてはシンプルな名称が多かった。
特に意味はないのか、意味がないと思えるものほど意味があるのか。
夜明けの訪れまでまだ長い。眠れぬ夜。コーヒーを飲めば余計に眠れなくなると思いつつ彼はキッチンに立った。
湯を沸かしながら煙草をふかしていると、パジャマの上にカーディガンを羽織ったなぎさが階段を降りてきた。彼女は早河の姿を見つけると無言で彼に抱きついた。
『どうした?』
「起きたら仁くんいなくて不安で……」
普段のなぎさなら、夜中に目覚めて早河が隣にいなくてもそのまま寝付けている。誘拐された娘の安否が気がかりで逼迫《ひっぱく》した状況では、どうしたって心細い。
『眠れないから開き直ってコーヒーでも飲もうと思って。なぎさも何か飲むか?』
「ミルクとお砂糖たっぷりのうんと甘いカフェオレが飲みたい」
『了解』
なぎさを椅子に座らせて、彼女の分のカフェオレの準備をする。早河の背中を見つめるなぎさが溜息混じりに呟いた。
「あなたと真愛がいなくなる夢を見たの。怖かった。あんな夢、現実になって欲しくない」
『大丈夫。その夢は現実にはならない』
不安げに見上げるなぎさの頬に早河は両手を添えた。早河の手になぎさの手が重なる。
『俺も真愛もなぎさの側にいるよ。真愛は必ず帰ってくる』
温かなぬくもりと早河の言葉が底知れない恐怖に怯えるなぎさの心を優しく包む。それはどんな気休めの言葉よりもよく効く、魔法の薬だった。
{好きに解釈してください。それでは、また}
まだ問い質したいことがある早河の質疑を打ち切って、佐藤は通話を終わらせた。せっかちな男だ。
早河は広告の裏に走り書きした己の文字に今一度目を通した。
『シトリー、べリアル、ダンタリオン……』
名前を声に出して改めて感じる違和感。聞き慣れない不思議なカタカナの羅列。
9年前のカオスにいた人間の通称は佐藤がラストクロウ、続いてスコーピオン、スパイダー、ケルベロス。通称としてはシンプルな名称が多かった。
特に意味はないのか、意味がないと思えるものほど意味があるのか。
夜明けの訪れまでまだ長い。眠れぬ夜。コーヒーを飲めば余計に眠れなくなると思いつつ彼はキッチンに立った。
湯を沸かしながら煙草をふかしていると、パジャマの上にカーディガンを羽織ったなぎさが階段を降りてきた。彼女は早河の姿を見つけると無言で彼に抱きついた。
『どうした?』
「起きたら仁くんいなくて不安で……」
普段のなぎさなら、夜中に目覚めて早河が隣にいなくてもそのまま寝付けている。誘拐された娘の安否が気がかりで逼迫《ひっぱく》した状況では、どうしたって心細い。
『眠れないから開き直ってコーヒーでも飲もうと思って。なぎさも何か飲むか?』
「ミルクとお砂糖たっぷりのうんと甘いカフェオレが飲みたい」
『了解』
なぎさを椅子に座らせて、彼女の分のカフェオレの準備をする。早河の背中を見つめるなぎさが溜息混じりに呟いた。
「あなたと真愛がいなくなる夢を見たの。怖かった。あんな夢、現実になって欲しくない」
『大丈夫。その夢は現実にはならない』
不安げに見上げるなぎさの頬に早河は両手を添えた。早河の手になぎさの手が重なる。
『俺も真愛もなぎさの側にいるよ。真愛は必ず帰ってくる』
温かなぬくもりと早河の言葉が底知れない恐怖に怯えるなぎさの心を優しく包む。それはどんな気休めの言葉よりもよく効く、魔法の薬だった。