早河シリーズ完結編【魔術師】
男は隼人に負わされた左腕の傷を押さえて経営戦略部のフロアを出た。非常階段を降りる途中で目出し帽を脱ぎ、隼人の返り血がついたブルゾンも脱いでくしゃくしゃに丸めた。
目出し帽とブルゾンをここに捨てて行こうか迷ったが、証拠品は現場に残さない方がいい。後でどこかで燃やしてしまおう。
階下で待機する警備員が男の到着を待っていた。男と警備員は感情の宿らない目でアイコンタクトを交わす。
『後は打ち合わせ通りよろしく』
『了解』
すれ違い様に警備員に囁いて、男は夜の闇に消えた。
男が立ち去った後、隼人は腹這いになってコートのポケットからスマホを出した。スマホのロックを解除するための指紋認証は、指が血で濡れていて指紋の認証がされなかった。
仕方なくパスワードを入力する血まみれの指が痙攣している。こんな時はロックだとかパスワードだとか、文明の進化と共に発展したセキュリティシステムが煩《わずら》わしくなる。
ロックが解除されたスマホからトークアプリを開いて通話を選択した。朦朧とする意識の中、呼び出し音がはるか遠くに聞こえた。
{……隼人?}
『美月……』
通話を押したつもりが、その横のビデオ通話を押していたようだ。スマホに美月の顔が映っている。
震える指でスマホを掴んだ。寒気が止まらず、指だけでなく全身が震えていた。
{隼人? ……ねぇ、どうしたの?}
『……ごめん……な。守っ……てやれなく……て……』
隼人の手から滑り落ちたスマホは血の海が広がる床に転がった。動く力も失った隼人は顔を伏せて目を閉じる。
{……隼人? ……隼人!}
ビデオ通話が繋がったままのスマホには、隼人の名を何度も叫ぶ美月の泣き顔が映り込んでいた。
第三章 END
→第四章 魔女裁判 に続く
目出し帽とブルゾンをここに捨てて行こうか迷ったが、証拠品は現場に残さない方がいい。後でどこかで燃やしてしまおう。
階下で待機する警備員が男の到着を待っていた。男と警備員は感情の宿らない目でアイコンタクトを交わす。
『後は打ち合わせ通りよろしく』
『了解』
すれ違い様に警備員に囁いて、男は夜の闇に消えた。
男が立ち去った後、隼人は腹這いになってコートのポケットからスマホを出した。スマホのロックを解除するための指紋認証は、指が血で濡れていて指紋の認証がされなかった。
仕方なくパスワードを入力する血まみれの指が痙攣している。こんな時はロックだとかパスワードだとか、文明の進化と共に発展したセキュリティシステムが煩《わずら》わしくなる。
ロックが解除されたスマホからトークアプリを開いて通話を選択した。朦朧とする意識の中、呼び出し音がはるか遠くに聞こえた。
{……隼人?}
『美月……』
通話を押したつもりが、その横のビデオ通話を押していたようだ。スマホに美月の顔が映っている。
震える指でスマホを掴んだ。寒気が止まらず、指だけでなく全身が震えていた。
{隼人? ……ねぇ、どうしたの?}
『……ごめん……な。守っ……てやれなく……て……』
隼人の手から滑り落ちたスマホは血の海が広がる床に転がった。動く力も失った隼人は顔を伏せて目を閉じる。
{……隼人? ……隼人!}
ビデオ通話が繋がったままのスマホには、隼人の名を何度も叫ぶ美月の泣き顔が映り込んでいた。
第三章 END
→第四章 魔女裁判 に続く