The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

その日俺は、仕事を終えて帰宅する途中だった。

時刻は既に深夜。辺りはとっくに寝静まって、商業施設も営業を終えていた。

しかし。

「…？」

普段は、商店街の中は通らない。しかしその晩、俺は商店街の方から不穏な気配を感じた。

…何で商店街？コンビニやゲームセンターならまだしも、寂れた商店街で深夜営業してる店はないと思うが。

気になった俺は、気配のした方に向かって歩いた。

この辺りは『青薔薇連合会』の縄張りであるが、何処の街にも我が物顔で深夜街を闊歩する不良グループというのはいるもので。

そういう奴等は、『青薔薇連合会』の準幹部として、成敗してやらなければならない。

まぁ、少し痛い目を見せてやれば、この辺りを彷徨くのはやめるだろう。

そう思って、俺は商店街の中に入っていった。

不穏な気配の正体はすぐに見つかった。

案の定、品のないチャラい服装をした高校生くらいの不良少年達数名が、路上に出店を出していた女性一人を取り囲んでいた。

ったく、困ったもんだ。

軽く注意してやろうと思ったら、あろうことか不良少年のリーダー格が、女性を蹴り飛ばして地面に引き倒した。

「…っ、あいつら」

それを見た俺は、非常に不機嫌になった。

俺はマフィアだから、相手が女だろうが子供だろうが、それが敵なら容赦なく殺す。

しかしそれは、相手が武器をこちらに向けてきたときに限った話だ。

非戦闘員で、しかも無抵抗の女性に対して暴力を振るうなど、断じて許せるものではない。

更なる追撃を加えようとする不良共に、俺はつかつかと歩み寄った。

「おい、お前ら」

「あ？」

「女性相手に数人がかりでよってたかって、恥ずかしくないのか？」

正論を言ったにも関わらず、不良達はにやりと笑って、今度は俺を取り囲んだ。

新たな獲物を見つけたと言わんばかりだが…。

「面白いこと言うなぁ、お前。俺らに喧嘩売るつもりか？」

俺がただの通りすがりの学生なら、ここで土下座して財布を出すところなんだろうが。

生憎俺は、表側の人間ではない。

「…お前達こそ、俺に喧嘩を売るつもりか？」

「は？」

俺は内心溜め息をつきながら…一瞬だけ、殺気を込めた目で不良共を睨んだ。

素人の悪党集団相手には、それで充分だった。

「…失せろ」

その一言で、不良共は一瞬にして自分達の不利を悟ったらしい。

怯えた顔で、一歩、二歩と後ずさった。

「この界隈は俺達の縄張りだ。二度と荒らすな」

こいつらに個人的な恨みはないが、しかし、この言葉は本心だった。

ここいらは『青薔薇連合会』の縄張り。自分達の縄張りの中を、不良グループごときに荒らされるのは鬱陶しい。

だから、少々きつめに脅しておいた。

本職のマフィアである俺にとっては易しいものだったが、彼らにとってはこんな脅しでも、充分効き目があった。

生まれて初めて本物の殺気を向けられ、捨て台詞もなく、半泣きで散っていった。

「…ったく」

あんまりあんなのがのさばるようなら、対策を考えなければならないな。

と、その前に。

「…大丈夫か？」

地面に引き倒されていた女性に、俺はそっと手を差し伸べた。