The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
そのときに出会った女性が、後に俺の妻となるフューニャだったのだが。

勿論出会った当初は、まさか目の前の女性と結婚することになるとは思っていなかった。





「…ありがとうございます」

俺が差し出した手を掴んで、彼女はそっと立ち上がった。

まだ少女と言っても差し支えないほど若いその女性は、白っぽい薄手のワンピースに、薄汚れたグレーのボロ布を身体に巻き付けるように纏っていた。

ボロ布の隙間から覗いて見えるくすんだ白っぽい髪は、縺れ合ってボサボサだった。

…ルティス帝国では、珍しい髪の色だ。

どうやら、浮浪者のようだな。

「ここで何をしてたんだ?」

「…占いをやっていたのですが…。さっきの方達に因縁をつけられてしまって」

占い…だと?

俺はそういった業界に全く詳しくないのだが…。占いなんて、儲かるのだろうか?

たまに路上で、手相占い…なんて看板を立てて座ってる人を見かけるけど。

客がいるのを見たことがない。

恐らく彼女も、占い屋の経営状況は芳しくないのだろう。着ているものも汚れているし、本人もかなり痩せている。

「以前は◯◯市にいたんですが…。都市整備だとかで、追い出されてしまったもので…。帝都に来てみたんですが。帝都も物騒なんですね」

「…」

◯◯市は、元々他の非合法組織の縄張りだったが…。最近『青薔薇連合会』がその組織を統合した。

その際、都市整備の為に、街中に巣食っていた『連合会』の系列組織以外は、全て解体、及び追放した。

彼女は裏社会の人間という訳ではなさそうだが…。浮浪者というのは、その都市の治安レベルを下げる存在だ。

だから、都市整備の煽りを受けて…追い出されてしまったのだろう。

要するに、「今日からここいら一帯は俺達が統治するから、お前らチンピラや浮浪者は出ていけよ」と言われた訳だ。

…参ったな。

つまり彼女は、回り回って俺のせいで住んでいた土地を追い出されてしまったのか。

「…そうか。それは…気の毒だったな」

「…」

彼女は無言で、血の滲んだ口許をボロ布で拭った。

さっきの不良共に蹴られたときの傷だろう。

「…良ければ、うちに来るか?」

「…え」

「寝る場所がないんだろう?あと…傷の手当ても」

「…」

「このままここにいると、またさっきの奴らが戻ってくるかもしれない」

まぁ、あれだけびびらせたら大丈夫だと思うがな。

「…良いんですか」

「あぁ。大したもてなしも出来ないがな」

「…」

あ、でも女性が男の家に来るのは抵抗があるか…。

と、思ったが。

「…分かりました。行きます」

「そうか」

彼女は地面に直に置いていた僅かな手荷物を抱えた。

「…お前、名前は?」

「女性に先に名前を尋ねるんですか」

「あー…。えーと。ルヴィア・クランチェスカだ」

しまった、つい本名を言ってしまった。

偽名を名乗っておくべきだったな。マフィアとしては…。

まぁ、言ってしまったものは仕方ない。

「フューシャ・リフューニャ・ルミリュクァットと言います」

「ふゅ…くぁ?」

恥ずかしながら、俺はその名前を上手く言えなかった。

発音が非常に難しい。

と言うか…そんな名前の響き、ルティス帝国にはないのでは?

「難しくて発音出来ないとよく言われます。好きに呼んでください」

「…そう、か」

好きにと言われても…どう呼べば良いんだ?

何処が名前で、何処が名字なのか分からない。

フューシャ…が名前なのか?でも言いにくいよな…。

「…じゃあ、フューニャで」

「…」

「嫌か?」

「いいえ。好きに呼んでください」

変な呼び方をされて怒っている訳ではなさそうだ。

それにしても、浮浪者で、この髪の色で、そしてこの名前。

もしかして…と思いながらも、俺は何も聞かずに、彼女を自宅に連れていった。
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