The previous night of the world revolution2〜A.D.〜
バスルームから出てきたフューニャは、俺のぶかぶかのトレーナーとスウェットを身に付けていた。

不格好ではあるが、少なくとも清潔である。

髪はしっとりと濡れており、先程までボサボサだったのが嘘みたいに艶やかに光っていた。

「あ…えと、フューニャ。サンドイッチ作ったんだけど…食べるか?」

「…頂きます」

俺が作ったのは、ハムやチーズ、レタスを挟んだサンドイッチと、適当な野菜をぶちこんで粉末コンソメを溶かしただけの簡単な野菜スープ。

本当に簡単過ぎるぞ。

しかしフューニャは文句も言わず、ダイニングに座って、もくもくと食べ始めた。

…不味くないだろうか?こんな簡単なものでさえ不味かったら、俺の料理の才能はゴミみたいなもんだな…。

普段は自分の為にしか作らないから、つい適当なものになりがちで。

ルルシーさんは料理上手らしいんだよな…。今度教えてもらおうか。

「…美味しいか?」

「はい」

あぁ。それは良かった。

「まともなものを食べるのは久し振りで…。凄く美味しいです」

「…そうか」

俺のお粗末な10分クッキングで作ったものでさえ、まともなもの、と評価するんだから。

普段の彼女がどんな生活をしているか、想像がつくというものだ。

「…こんな風に優しくしてもらうのも、滅多にないことなので…。とても有り難いです」

「…」

「…」

…優しくしてもらう、か。

「…大変だったんだな、フューニャ」

「…」

俺は彼女の事情なんて、何も知らないが。

でも、これだけは分かる。

「頑張ったんだな…。一人で…。まだ若いのに」

「…」

「…偉いな、フューニャは」

ぽろ、とフューニャの瞳から水滴が落ちた。

鼻を啜り、目をごしごしと拭きながら、フューニャはサンドイッチを齧った。

俺も…マフィアに入ったのは、そこそこ思い出したくない過去を持っているからだが。

フューニャも、この年で一人路上生活をしているということは…それなりの事情があるからなのだろう。

人には言いたくない、自分でも思い出したくないような事情が。

「俺がしてやれることなんて、ほとんどないけど…。まぁ、うちにいる間はゆっくりしていってくれ」

「…ありがとうございます」

フューニャは涙を拭き、小さく答えた。
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