裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?
「お土産は気に入って頂けました? 今年は冷えるとお聞きしましたので、寒がりのグレイのために沢山アヒルを集めてみたのですけれど」
人間とは寒い日に水鳥の寝具で寝るのでしょう? とドヤ顔の彼女に駆け寄ったグレイは、
「……だから、お前の人間情報ほぼほぼ全部間違ってんだよ、パトリシア」
彼女を抱きしめて、ずっと呼びたかった名を呼んだ。
「……で、お前は何をしに来たんだよ。そもそもどうやって境界線を越えた?」
いい加減離れろ、と引き剥がそうとしたのだが無理だったので諦めたグレイはパトリシアの好きにさせたままため息交じりにそう尋ねる。
「久しぶりの再会だというのに、相変わらずのつれなさ具合。先程雰囲気に流されてうっかり自分からハグしてきたくせに、一周まわって冷静になったが故のツン全開! 相変わらず照れ屋さんで可愛らしゅうございますね、旦那さま」
グレイの膝の上に座り、グレイの首に手を回したままスラスラと長台詞で応戦してくるパトリシア。
「……お前、マジでいっぺん口閉じろ」
「あら、説明しろと言ったり黙っていろと言ったり、本日も矛盾塗れでお忙しいですわねぇ。あ、うるさいというのなら強引に黙らせてみます?」
じゃん、と効果音つきで最近流行りのロマンス小説を取り出したパトリシアはにやにやと揶揄うような視線を寄越し、
「最近のレディは強引な俺様系にときめくそうですよ?」
心底楽しそうにそう言った。
「どこから仕入れてきた、その間違い情報」
「今月の売り上げランキング一位と書店に張り出されておりましたわ」
読破済みです、と笑うパトリシアは、
「ですが、私は躾のなっていない狗を躾ける方が好きですね。レディの意向を無視する男は頂けません」
趣味じゃありませんでした、とグレイに本を押し付ける。
「こっちの都合と意向は丸無視か」
「聖職者を隠れ蓑にしていて女性との関わりが希薄な旦那さまはご存知ないかと思いますが、レディとは常に猫のようにわがままで気まぐれに相手を振り回すことが美徳とされる生き物なのですよ」
「聞いたことねぇよ。あと別に希薄じゃねぇし」
「浮気は許しませんよ、旦那さま」
グレイの反論にぷくっと頬を膨らませたパトリシアは、
「ああ、もういっそのこと本当に食べてしまいましょうか」
そうしたら私だけのモノにできますね、と拗ねた口調でそう言った。
「……できないだろ」
グレイは静かに笑い、パトリシアの髪を優しく撫でる。
「パトリシアにそれはできない」
何度も祈ったけれど誰も助けてはくれなかった。
手を伸ばしてボロボロに傷つきながら約束を守ってくれたのは、彼女だけだ。
「……言い切りますね」
「実体験として知ってるからな」
グレイはパトリシアの頬にそっと手を伸ばし、触れる。
あの頃とは違い、触れた箇所に温かみを感じた。
「ケガはなさそうだが、存在を維持できるだけの魔力は足りてるのか?」
パトリシアは今確かに生きていてここにいるのだと実感しながら、グレイは彼女にそう尋ねる。
再会した彼女は人間の遺体に憑依していた姿ではなく、暴食の姿に近い。
だが、尖った耳も特徴的な角もない。ぱっと見ただけではただの人間にしか見えない。
暴食の燃費の悪さを知っているだけに、これが正常な状態なのか判断がつかなくて心配になる。
「足りない、って言ったらくれるんですか?」
そう言って尋ね返してきたパトリシアのピンク色の瞳を覗き込みながら、
「必要ならいくらでも」
グレイは自分からパトリシアに口付けた。
人間とは寒い日に水鳥の寝具で寝るのでしょう? とドヤ顔の彼女に駆け寄ったグレイは、
「……だから、お前の人間情報ほぼほぼ全部間違ってんだよ、パトリシア」
彼女を抱きしめて、ずっと呼びたかった名を呼んだ。
「……で、お前は何をしに来たんだよ。そもそもどうやって境界線を越えた?」
いい加減離れろ、と引き剥がそうとしたのだが無理だったので諦めたグレイはパトリシアの好きにさせたままため息交じりにそう尋ねる。
「久しぶりの再会だというのに、相変わらずのつれなさ具合。先程雰囲気に流されてうっかり自分からハグしてきたくせに、一周まわって冷静になったが故のツン全開! 相変わらず照れ屋さんで可愛らしゅうございますね、旦那さま」
グレイの膝の上に座り、グレイの首に手を回したままスラスラと長台詞で応戦してくるパトリシア。
「……お前、マジでいっぺん口閉じろ」
「あら、説明しろと言ったり黙っていろと言ったり、本日も矛盾塗れでお忙しいですわねぇ。あ、うるさいというのなら強引に黙らせてみます?」
じゃん、と効果音つきで最近流行りのロマンス小説を取り出したパトリシアはにやにやと揶揄うような視線を寄越し、
「最近のレディは強引な俺様系にときめくそうですよ?」
心底楽しそうにそう言った。
「どこから仕入れてきた、その間違い情報」
「今月の売り上げランキング一位と書店に張り出されておりましたわ」
読破済みです、と笑うパトリシアは、
「ですが、私は躾のなっていない狗を躾ける方が好きですね。レディの意向を無視する男は頂けません」
趣味じゃありませんでした、とグレイに本を押し付ける。
「こっちの都合と意向は丸無視か」
「聖職者を隠れ蓑にしていて女性との関わりが希薄な旦那さまはご存知ないかと思いますが、レディとは常に猫のようにわがままで気まぐれに相手を振り回すことが美徳とされる生き物なのですよ」
「聞いたことねぇよ。あと別に希薄じゃねぇし」
「浮気は許しませんよ、旦那さま」
グレイの反論にぷくっと頬を膨らませたパトリシアは、
「ああ、もういっそのこと本当に食べてしまいましょうか」
そうしたら私だけのモノにできますね、と拗ねた口調でそう言った。
「……できないだろ」
グレイは静かに笑い、パトリシアの髪を優しく撫でる。
「パトリシアにそれはできない」
何度も祈ったけれど誰も助けてはくれなかった。
手を伸ばしてボロボロに傷つきながら約束を守ってくれたのは、彼女だけだ。
「……言い切りますね」
「実体験として知ってるからな」
グレイはパトリシアの頬にそっと手を伸ばし、触れる。
あの頃とは違い、触れた箇所に温かみを感じた。
「ケガはなさそうだが、存在を維持できるだけの魔力は足りてるのか?」
パトリシアは今確かに生きていてここにいるのだと実感しながら、グレイは彼女にそう尋ねる。
再会した彼女は人間の遺体に憑依していた姿ではなく、暴食の姿に近い。
だが、尖った耳も特徴的な角もない。ぱっと見ただけではただの人間にしか見えない。
暴食の燃費の悪さを知っているだけに、これが正常な状態なのか判断がつかなくて心配になる。
「足りない、って言ったらくれるんですか?」
そう言って尋ね返してきたパトリシアのピンク色の瞳を覗き込みながら、
「必要ならいくらでも」
グレイは自分からパトリシアに口付けた。