大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「そりゃあ、私だって腹が立ってるし――妙子さんを許せるかって言われたら、許せそうも無いですけどっ!」

「羽津紀さんってば!聞いてます⁉」

 私を止めようと抱きかかえる翔陽くんの腕の中で、ありったけの声で叫ぶ。

「ただ!人を好きになる気持ちを、そんな言葉で簡単に済ませないでください!たとえ――それが、歪んだものであっても、本人にとっては大事なものでしょうっ‼」

 ――そう、私だって、もう知っている。

 ――恋愛感情は、そんな綺麗なものばかりではない事を。
 

 執着、独占欲、嫉妬心。
 疑心暗鬼や――自己嫌悪。


 そんなマイナスの感情の数々だって――相手を好きだからこそだ。

 ならば――……妙子さんの想いも、本人にとっては、大事な恋愛感情の一つのはず。

 それを、外にいる人間がどうこう言うのは、まるで、自分の感情まで否定されているようで――今の私には我慢できなかった。

「――……羽津紀さん」

 妙子さんは、驚いた顔で、そう、私を呼んだ。
 その、弱々しい声に、視線を向けると――深々と頭を下げられる。

「た、妙子さん?」

「――……ありがとうございます……目が覚めましたわ。……度重なる非礼の数々、お詫びのしようもありません」

 彼女は、そう言って顔を上げ立ち上がると、叶津氏の隣に向かう。
 その美しい所作は、やはり、育ちの良さがうかがえた。

「お祖父様、申し訳ございませんでした。私、また(・・)選択を間違えるところでしたわ」

「――……え?」

 私達は、その言葉に目を丸くした。

 ――また、とは。

 すると、叶津氏は、苦笑いで付け加えるように言った。

「――妙子は、非常に惚れっぽいタチでしてね。以前も、浮気性の御曹司との縁談を進めてしまった事がありまして」

「お祖父様!」

 彼女は、ふてくされたように叶津氏を見やる。

 ――ああ、そう言えば――。

 私は、以前の、二番目、三番目という言葉を思い出す。
 ――もしかしなくとも、それが、原因か。

 妙子さんは、チラリと私を見やると、恥ずかしそうに眉を下げた。

「……羽津紀さん……私、許してもらえるとは思いませんが――……もしも……もしも、お気持ちが、変わる事がありましたら……」

「――ハイ?」

 私は、いぶかし気に彼女を見やる。

 ――いや、この期に及んで、何なのよ。
 ――文句なら、受けて立つわよ⁉

 けれど、もじもじとしながら、続けられた。



「……お、お姉様、と、お呼びしても、よろしいでしょうか……?」



 瞬間、その場が静まり返る。

 私は――完全に停止状態。

 そんな中、彼女は、こちらを上目遣いで熱っぽく見てくる。


 ――まさか、惚れっぽいというのは――男女の区別無く、なのか。



「……え、っと……ごめんなさい……。……無理、です……」



 その視線を受け――けれど――私は、そう、引きつりながら、答えるしかなかった――。


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