大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
24.それが、私達でしょう?
 叶津氏に連れられ去って行った妙子さんを見送ると、放心状態の江陽が、我に返ったように叫んだ。

「翔陽!まだ、話は終わって無ぇ!!」

 そして、再び翔陽くんを掴もうとするが、すぐに、三ノ宮社長に押し戻された。
「親父!」
「いい加減、冷静になれ、江陽」
「――何がだよ」
「翔陽の計画に、本当に気づいてないのか、お前は」

「――え」

 江陽は、そう言われ、翔陽くんから私に視線を移した。
 そして――ポツリとつぶやく。

「……ま、さか……オレに、会わせるため……?」

 そう言って、再び、翔陽くんを見やる。
 彼は、ふてくされながらも、うなづいた。
「……だって……あんな兄さん、見ていられなかったから……」
「――翔陽」
 けれど、彼は、ニヤリと私に視線を向けると、江陽に告げた。


「でも――何だか、本当に婚約者になりたくなった、かな?」


「「ハアァァ!!??」」


 ギョッとした私と江陽は、思わずハモる。
 すると、三ノ宮社長と亜澄さんが、クスクスと笑い出した。
「――二人とも、本当に、気が合うのねぇ」
「あ、亜澄さん⁉」
「まったく――こんな二人を引き裂くとか、無理だってわからなかったのかな」
 三ノ宮社長は、そう言って、からかうように江陽を見やる。
 さすがに、ヤツも、バツが悪そうにしていた。

 ――でも。

「……あ、あの……良かったんですか……?」
「え?」
 恐る恐る尋ねる私に、三ノ宮社長は、不思議そうな表情を見せた。
「え、あ、いえ……大叔父さん……の、条件は……皆さんにとって、跳ねつけられないものなのだと……」
 だからこそ――江陽は、妙子さんと結婚するという選択をしたのだ。
 けれど、三ノ宮社長は、申し訳無さそうに私に言った。
「済まないね、羽津紀さん。――一応、江陽の事が片付いてから、公表するつもりでね」
「――え、あ……」
 社長を退く、という事は――重大な何かが、あるという事。
 そして、発表の時期を間違えれば、株価など多方面に影響があるだろう。
 部外者の私は、それ以上聞くのをやめようと口を閉じるが、彼は、あっさりと続けた。

「――サングループの社長を退き、独立するんだよ」

「――え」

「……は⁉」

 私と江陽は、同じように目を丸くした。
 まさか――独立という選択肢があるなんて。
 三ノ宮社長は、少しだけ、楽しそうに私に向かって言った。

「幸い、私についてきてくれる人間は多くてね。ひとまず、サングループのライバル企業を目指そうかと思ってるんだ」

「……は、はあ……」

「――そうそう。どうかな、羽津紀さん。独立したら、ウチに来てみないかい?」

「――……は???」

 私は、ポカンと口を開ける。

 ――……どういう、事??

 ハテナマークしか浮かばない。
 すると、三ノ宮社長は、かみ砕くように――楽しそうに説明をしてくれた。

「今、構想しているのは――食品会社というのは変わらないのだけれど、商品企画を主に手掛けるようなものでね。他企業からの依頼を受けるような感じにしようと思っているんだよ」

「……ハ……ハア……」

「――羽津紀さん、企画部だったよね?サングループとの企画の時にも列席していたし――何より、七海(ななうみ)社長の隠し玉って事だっただろう?縁があったら、仕事ぶりを見てみたいと思っていてね」

「……ハア……」

 そんな言葉は、右から左だ。
 ――私は、今、何を言われているのだろう。

 ――天下のサングループ社長に。

「おい、親父。今、言うコトじゃねぇだろ」

 私の状態を見かねてか、江陽が間に入る。
 三ノ宮社長は、それに気がつき、苦笑いで頭を下げた。
「ああ、済まない、突然だったね」
「え、あ、いえ。……まあ……」
 首を振って返すが、突然にも程がある。
「――いずれ、正式にお話したいと思うから、落ち着いたら、また、来てくれるかな」
「……し、承知しました……」
 まるで、仕事の会話のようだが――それ以外に思いつかない。
 そんな私達を見守っていた亜澄さんは、しびれを切らしたように口を挟んできた。
「もう、そんなお話、独立してからで良いでしょうに。ごめんなさいね、羽津紀ちゃん。こんな仕事人間で」
「あ、いえ、そんな……」
「ああ、そうそう。せっかくだし、ご飯召し上がって行って?」
 私の答えを聞いているのか、いないのか。
 少々不安になったが――彼女の機嫌が良いのだから、それ以上、口は開かなかった。
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