大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 食事を終え、亜澄さんの後片付けの手伝いをしていると、彼女は、何だか機嫌が良かった。
「うれしいわ。――ウチは、娘がいないから――紀子(のりこ)さんが、うらやましかったのよ」
「――……そこまで良いものでも……」
 苦笑いで言うが、彼女は笑うだけだ。
「これからも、たまには、こうやって来てくれるとうれしいわ」
「……ハイ」
 洗い物を終え、キッチンからリビングへと移ると、ソファで江陽と翔陽くんが向かい合ってにらみ合っていた。

「ち、ちょっと、江陽!翔陽くんも――何してるのよ」

 すると、江陽は立ち上がり、私の左手を取った。
「こ、江陽⁉」
「――何で、指輪してるんだよ、お前。……翔陽は、はぐらかすばかりで、話にならねぇし」
「……だって、僕が言う事じゃないだろ。兄さんの問題なんだから」
「何の事よ、一体?」
 二人を交互に見やり、私は、眉を寄せる。
 江陽は、私の手を取ると、引きずるようにリビングから出た。
「こ、江陽⁉何なの、一体!」
 けれど、返ってくるのは、不機嫌そのものの空気だけ。
 そして、階段を上がり真っ直ぐ進むと、右手奥の部屋のドアを開けた。

「……江陽?」

「……オレの部屋だ」

「そ、そう……」

 シンプルなそこには、ベッドとクローゼット、机の上にパソコンが置いてある。
 その隣には、黒色のメタルラック。
 昔、アイツが隣に住んでいた時、入った部屋のイメージと変わっていなくて、何だか安心してしまう。
 私は、部屋のベッドに座らされると、目の前にヒザをついた江陽に、左手を取られた。
「――な、何よ」
「……翔陽が贈ったのかよ、コレ(・・)
 その、不機嫌な表情と声音に――ようやく、コイツが誤解しているのだと気がついた。
「違うわよ。……一応、突っ込まれる隙を見せないように、って、来る時に買ったのよ」
「お前がか?」
「そうよ、文句ある⁉」
 ポカンとした表情に、何だか、ムッとしてしまう。
「い、いや……それ、婚約指輪だろ……?」
「普段使いにもできるって言われたけど?」
「――な、何だよ、そりゃあ!」
 そうしかめっ面で返され、今まで抑えていたものが一気に噴き出した。

「何だ、は、こっちのセリフよ!――これまでの、私の涙を返しなさいよ!このバカ江陽!!」

 そう言い切ると、私は、勢いよく自分からヤツに抱き着いた。
 すると、すぐに、痛いくらいに抱き締められる。

「――羽津紀っ……羽津紀っ……!!」

 繰り返し呼ばれ、応える代わりにヤツの背中に腕を回す。

「――江陽……」

「――……ゴメンな……うーちゃん(・・・・・)

 私は、浮かんでくる涙をそのままに、微笑んでつぶやく。

「……こうちゃんの、バカ……」

「……ああ。……もう、否定できねぇな……」

「そうよ。――……翔陽くんから、聞いたでしょう?」

「……一生、大嫌い、だろ?最初は、目の前真っ暗だったけど――」

 そう言いながら、ヤツは、私をそっと離し、うれしそうに微笑んだ。


「――……オレ達にとっては、大好き、と同じだろ?」

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