大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
25.全然、嫌じゃないから、嫌なのよ
 江陽は、私を自分の車の助手席に押し込むように乗せると、見送りに出てきた皆さんに言った。

「――羽津紀(コイツ)、送ってくるから」

「あら、どうせ、泊まるんでしょ。着替え持って行ったら?」

「あっ、あっ……亜澄さんっ⁉」

 あまりにあっけらかんと言われ、私は、茹る。
 けれど、彼女は、にこやかに続けた。

「二人のペースで良いけれど……できれば、若いおばあちゃまになりたいわねぇ」

「母さん!」

 暗に、子作りを応援されているようで、私は、身の置き所が無い。
「ホラ、羽津紀さんが困ってるだろう。あんまり、そういう事は言わないものだ」
 見るに見かねてか、三ノ宮社長が、亜澄さんを止めようとするが、彼女は少々ふてくされて彼を見上げた。
「わかってます。……でも、こんな事もあったし、早く羽津紀ちゃんがお嫁さんになってくれたら、って思うのよ」
「それはそうだが――」

「――もう、いい加減にしてよ、父さん、母さん」

「翔陽」

 あきれたように彼に止められ、二人は、眉を下げた。
「――……まったく……本当に孫が生まれたら、手に負えないかもね、兄さん?」
「……うるせぇよ」
 からかうように言われ、江陽は、エンジンをかけながら、ふてくされた。
「でもな、いくらオレのためとはいえ――翔陽、冗談でも、これ以上、羽津紀にちょっかいかけるなよ」
 すると、彼は、表情をスッと変える。

「――……冗談なんかじゃ、ないよ」

「え」

 そして、視線を江陽から私に向けた。

「……正直、最初は、何でこの(ひと)が、って思ったけど――兄さんの気持ちが、わかった気がする」

「し、翔陽……?」

 動揺を見せる江陽に、彼は、しれっと続けた。


「羽津紀さん、次にこんな事があったら――本気で、僕と結婚しませんか」


「――え」


「翔陽!!!」


 目を剥く江陽に、ニヤリと口元を上げると、翔陽くんは、続けた。

「――今日の言葉、全部、本気ですからね?」

「……っ……」

 私は、脳裏に浮かんだ彼の言動を思い出す。
 そして――気まずさに身を縮こませた。
「おい、羽津紀」
 けれど、不安そうに私を見やる江陽に気づき、肩をすくめて返す。


「――ごめんなさい、私、江陽じゃないとダメだから」


「――でしょうね」


 答えのわかり切ったやり取りに、お互い苦笑いだ。
 すると、翔陽くんは、江陽に向き直り――頭を下げた。

「――……翔陽……?」

 江陽は、車から降りると、彼の前に立つ。

「――……ごめんなさい、兄さん」

「……何がだよ」

「……今まで――羽津紀さんや……兄さんの周りの人達に、失礼な態度ばかり取ってた」

 すると、ヤツは、大きく息を吐き、翔陽くんの頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
「――……っ……!!?」
「バァカ、今さらだろ、この生意気が!」
「……え」
 顔を上げた翔陽くんは、目を丸くする。

「……兄さん?」

「――……そう思うなら――これから、直せばいい。それだけだ」

 そう言って、江陽は、車に戻る。
 そして、シートベルトをつけると、ギアを入れ、

「それにな、これからは、お前の付け入る隙は無ぇと思え」

 そう言い残し、車を発進させたのだった。
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