大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「――ち、ちょっと待ちなさい、江陽!」

「何でだよ。――そういう流れだろ」

「待てって言ってんのよ!!!」

 そのまま、再びなだれ込もうとする江陽を、どうにか制止する。
 ヤツは、不満を顔いっぱいにしながら、渋々と手を止めた。
「……何だよ」

「……に、入籍、だけ……じゃ、やっぱりアンタ、ダメよね……?」

「え」

 私は、おずおずとヤツを見上げる。
「……式とか……いろいろあるけど……ゆっくり考える時間が欲しいというか……」
「――羽津紀?」

 ――私だって、考えなかった訳じゃない。
 プロポーズされて、うなづいたのだから。

 ただ――それを夢見る前に、いろいろあり過ぎたのだ。

「……ダメ、かしら……?……江陽……?」

 すると、ヤツは、放心状態のまま、私を見た。


「……マジ、で?」


「――……は?」


 ――やっぱり、早く挙げたいとか不満はあるか。

 そう構えていたが――そっと手を取られた。

「……江陽?」



「――……マジで……結婚、できる……のか……?」



「――……ちょっと、江陽?」

 意味がわからないままヤツを見やり――固まった。

 ――その瞳からは――一筋の涙。

「こう……よう……?」

 瞬間、これ以上無いほどの力で抱き締められた。


「――……夢、じゃねぇ、よな?……うーちゃん……」


「……ええ。……夢じゃない、わね……こうちゃん」


 こんな反応されるなんて、欠片も思わなかったけれど――。
 今まで、私だけを想っていてくれていた江陽にとっては――きっと、抑えきれないほどの感情があふれ出したのだろう。
 そう思えば、つられるように涙がこぼれた。

「……ずっと、待たせて、ごめんなさいね?」

「――……バァカ」

 違うだろ、と、ヤツは続ける。
「そういう時は――ありがとう、だろうが」
 私は、一瞬だけ目を丸くする。
 そして、微笑みながら、ヤツの頬に伝う涙を拭った。


「……そうね。……待っていてくれて――ありがとう、江陽」



 それから二人で意識が飛ぶまで、また抱き合う。
 ――まるで、離れていた時間を取り戻すかのように。
 そして、ホテルから出たのは、日曜の夕方近く。
 さすがに、歩くのもしんどいが――コイツは、何で平然としているのだ。
 私は、運転席に乗り込む江陽を、ふてくされながら、にらんだ。

「羽津紀、大丈夫か?」

「……コレが、大丈夫だと思うの、アンタ?」

 いつぞやと同じように責めるが、ヤツは、浮かれたように笑う。
 私は、ムスリ、と、にらみ、助手席に乗り込んだ。
「じゃあ、ウチに泊まるか?世話するぞ?」
「い、いいわよ!バカじゃないの?!」
 こんな状況で、コイツの家に行ったら――手に負えないほど上機嫌の、亜澄さんが目に浮かぶ。
「バカって、お前なぁ……」
「ち、ちゃんと帰れる!いざとなったら、聖に頼るから!」
「そこは、オレに頼れ!」
親友()が優先だって、知ってるじゃない!」
「知ってるけどな!また、抱き潰すぞ⁉」
「それは、嫌――っ‼」
「嫌なのかよ⁉」

「全然、嫌じゃないから、嫌なのよ!」

 そう返し――我に返る。
 目の前には、耳どころか、首まで真っ赤な江陽。

「……この、無自覚鈍感女」

 ヤツは、そう言って、私に軽くキスを落とすと、ふてくされながらエンジンをかけたのだった。
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