大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
26.そして、幸せになる事だ
 ようやく様々な問題も解決に向かい、ひと段落――と、思った頃に、また、問題。

 ――いや、見ないようにしていただけのものか。

 よろよろと歩く私を見かね、江陽は、マンションまで送り届けてくれた。
 そして、部屋に入ろうと鍵を取り出すと、スマホにメッセージが届く。
 私は、それを確認しようとするが、隣でのぞき込もうとしている江陽を見やり、眉を上げた。
「ち、ちょっと、何見ようとしてんのよ!」
 いくら婚約者でも、プライバシーというものがあるでしょうに!
 けれど、ヤツはふてくされたまま、後ろから抱き着いた。
「……ちょっと、江陽」
「……だって……男からかも、とか……気になるだろ」
「だからって、許可なく見るんじゃないわよ」
「――……わかった……悪い……」
 しゅんとしたヤツの表情を見て、怒り切れなくなってしまう。

 ――ああ、もう、私、かなり、コイツにほだされてないかしら。

「……先に、私が確認するから」
 そう言って、べり、と、音がするほどにヤツを引きはがし、背を向けてメッセージを確認すれば――

 ――今週末、空いてますか?
 ――勉強会など、いかがでしょうか。

 想真さんからだった。

 私は、そわそわと、こちらをうかがっている江陽を振り返ると、苦笑いする。
「……想真さん――聖のお兄さんから勉強会のお誘い。同業者だから、いろいろ教えていただいてるの」
「――……でも、ホテルで一緒だったじゃねぇか」
 まるで、浮気を責められているようで、私は、ムッとしてしまう。
「あれは、彼のお友達が予約していたけど、キャンセルしなきゃいけなくなったから、って――」
「――あんなハイクラスのホテルの食事を?」
「奥様が出産だったの」
「……でも、お前が行く必要あったのかよ」
「……たまたまよ」

 誘われた理由を教えれば――おそらく、また、抱き潰される。
 さすがに、いい加減、生活に支障が出そうだ。

 私は、言葉を濁し、江陽を見上げた。
「良い機会だから、勉強したかったの」
「――勉強、勉強。――熱心なコトで」
 そう言って、ヤツは私の部屋に一緒に入り、ドアが閉まるタイミングで再び抱き着いた。
「ちょっと、江陽!」
「……勉強のためなら、男とホテルディナーにも行くんだな」
「……アンタね……」

 ……完全に拗ねたわね、コイツ。
 ――本当に、面倒くさい男なんだから。
 
 私は、江陽を再び引きはがし見上げると、眉を寄せる。
 ――もう、いい加減、シワが取れなくなるかもしれないわね……。
 そんな危機感は、ひとまず、置いておく。

「……そうでもしなきゃ、やってられなかったって言わなきゃ、わからない?」

 その言葉に、ヤツは、硬直する。

「……悪い……」
「アンタだって、妙子さんと一緒だったじゃないの」
「アレは――あの女に、勝手に部屋を予約されて――その後、叶津のじいさんと大叔父さんと、式の打ち合わせしなきゃいけなかったから……」
「――そう」
「言っとくけど、指一本触れてねぇからな!」
 江陽は、私の両肩を掴んで真っ直ぐ見つめると、必死で訴える。
 私は、その手をそっと外すと、肩をすくめた。
「……今さら、疑ってはいないけど……」

 ――そもそも、女嫌い。
 ――というよりも、恐怖症なのだ。

 そして、それが、一朝一夕で治るようなものでないのは、もう、知っている。

「羽津紀」
 あからさまにホッとした江陽は、離れがたいのか、三度(みたび)私に抱き着いてきた。
 今度は、されるがままになる。
 あの時の痛みを思い出してしまって、ヤツの温もりで癒されたかったから――。

「……でも……あの時は、もう、違う世界の人間になったんだと思っていたわ」

「――……ああ……」

 目を伏せると、私の気持ちに気づいたのか、ヤツは、包み込むように抱き締めた。

「……悪かった」

「――……もう、過去の事よ」

「……でも」

「――……振り返るのは、もう、やめましょう。……私達、同じ未来を見ているんじゃなかったの?」

 私が、そう告げると、江陽は、更に腕に力を込めた。

「――……もちろんだ!」

 その力強さに安心感を覚え、目を伏せる。

 ヤツは、私を安心させるように――優しく、何度もキスをくれた。
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