大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「――とりあえず、今回はお断りしておくわ」

 そう言って、私は、想真さんからのメッセージに返信しようと、スマホを持つ。
 すると、抱き着いたままの江陽は、ムッとしながら私の手元をのぞき込んだ。
「……今回だけなのかよ」
「……私だって、勉強しなきゃいけないのよ。――想真さんと話していて、自分の知識が圧倒的に少ないのを感じたの」
「でも、お前って、そういう知識が必要か?」
 一瞬、バカにされたのかと思い、ジロリと江陽を見やるが、ヤツはすぐに言い直した。
「――いや、前に、班長から聞いたコトがあるんだよ。神屋課長が、お前を総務から引っ張ってきた経緯。――素人だからこそ、なんだろ?」
「ええ。――素人からの視点が必要だって、言われたわ」
「なら、逆効果じゃねぇの?」
 私は、江陽の手をゆっくりと下ろすと、ヤツを見上げた。
「でも、丸五年――ずっと、素人だったのよ?この先も、そのままという訳にはいかないと思うのよ」
「……何か、やりてぇのか?」
 その問いかけには、首を振る。
「……そういう訳じゃないわ。でも――想真さんと話した時、私は、ずっと、尋ねてばかりで――これじゃいけないと思ったの」
「――そうか」
 ええ、と、私はうなづく。
「もちろん、仕事に支障が出ない程度にだけど……知っている事が増えれば、もっと、いろんな視点で見る事ができると思うの」

 ――そのためにも、やはり、勉強会はありがたいのだ。
 ――まあ、含むところはあるのだろうけれど。

 江陽は、渋々うなづくと、私から離れる。
 けれど、機嫌は直っていないようだ。
「……じゃあ、メッセージ見せろよ」
「何でよ」
「浮気じゃねぇって、確認するだけだ」
「アンタ、バカじゃないの⁉」
 あれだけ――気持ちを伝え合ったのに、まだ、疑う気なの?!
 私は、そう切り捨てると、ヤツに背を向け、想真さんのメッセージに返信する。

 ――お誘いありがとうございます。
 ――ですが、申し訳ありません。今回は、ご期待に添える事ができません。

 それだけ、あっさりと送信する。
 すると、すぐに返信。

 ――そうですか。
 ――なら、また、ご都合の良い時があれば、ご連絡ください。
 ――必要なら、資料などご用意しますよ。

 私は、それにお礼を返す。
 そして――ジロリ、と、右後ろに視線を移した。

「……ちょっと、江陽」

「……本当に、勉強会みてぇだけど……」

 ――まだ疑うか、この男は!

 いよいよ、堪忍袋の緒が切れそうだ。
 私は、ヤツをにらみ上げて言った。

「……言っとくけど、結婚するからって、全部が全部、アンタのものになる訳じゃないからね」

「――わ、わかってるけどよ!」

 江陽は、ふてくされながら、渋々うなづく。
 ――いや、アンタ、わかってないわよね。
 そう思い、大きくため息をついた。

「羽津紀?」

「――ねえ、江陽。私、昔みたいな独占欲は嫌よ?」

「……っ……」

 ――恥ずかしいのをこらえながら、甘えるような口調で告げると、ヤツは、真っ赤になって固まった。

「……でも……し、心配、だろ。……お前、付き合ってから、もっと、綺麗になったし……翔陽はともかく……片桐班長とか……その、今の、聖の兄貴とか……狙ってるヤツもいる訳だし……」

 ゴニョゴニョと口ごもるヤツを、私は、あきれたように見上げた。

「……アンタ――惚れた欲目、って言葉、知ってる?」

「事実だろ」

「――……大体、それを言うなら、聖の方がずっと多いわよ。もうちょっと、客観的な目を持ちなさいな」

 そう言い切ると、江陽は、ハアア、と、これ見よがしにため息をついた。
 私は、その態度にカチンときてしまう。

「――何よ」

「いや、ここまで鈍感なら、逆に安心なのか……?」

 独り言は、しっかりと聞こえた。
 私は、江陽の頬を思い切りつねる。

「……もう一回、大嫌いから、やり直したいの?」

 すると、ヤツは、機嫌を直したのか、ニヤリ、と、笑い、私の手を取って引き寄せた。

「――何だよ、結局、最初から好きってコトか?」

「――……っ……!」

 揚げ足を取られ、真っ赤になる。
 私は、思い切りヤツの足を踏みつけ、叫んだ。

「――……こうちゃんなんて、大っ嫌い!!!」
 

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