大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
「……この人……三ノ宮くんの父親――だよね……」
動揺している私に、片桐さんの声は遠くに聞こえる。
――そうか――。
――……ついに、自由になれるのか。
その事実に、ほんの少しだけ安堵感を覚える。
――でも――もう、私には遠い人達。
良くしてくれた思い出しか無くて……彼等に、孫の顔を見せられないのが悔やまれるが、仕方のない事だ。
『今後、独立し、新たに会社を立ち上げる予定との事』
アナウンサーの淡々とした声が流れる中、それが視界に入った瞬間――
「名木沢さん?!」
私は、反射のように勢いよくテレビの前へ向かうと、その両端をすがりつくように手で押さえ、画面を凝視した。
何かの会場だろうか――フラッシュをたかれながら、報道陣に囲まれている三ノ宮社長の隣にいるのは――
「――こう……よう……」
もう、会う事も無いアイツの姿を見てしまい――涙があふれる。
――まさか――……こんな形で――……。
「――……っ……!」
声を殺して涙を流すが、耐えきれずに両手で顔を覆うと、その場に崩れ落ちる。
そんな私を、片桐さんは、遠慮がちに支えてくれた。
「……名木沢さん……」
「江陽っ……江陽――っ……!」
――画面越しだけれど――少しだけ、やつれたように見える江陽は、それでも、凛とした姿で父親の隣に控えていた。
それを見てしまったら――これまで抱えてきたものが、あふれ出す。
「――ごめんなさい、江陽――!
――ごめん……っ……なさ……い……!」
繰り返す謝罪の言葉は――もう、アイツに届く事は無いはずなのに、言わずにはいられなかった。
――すると。
「――そういうのは、オレを見て言えっつーんだ、うーちゃん」
――不意に耳に届いたのは、確かに江陽の声。
ああ、ついに――空耳までか。
「……おい、聞こえてんのか、羽津紀!!」
――え?
私は、涙を流したまま、顔を上げる。
目の前でヒザをつき、片桐さんを押しのけるようにして、私の両肩を抱えたその手の温もりは――懐かしすぎて。
「――……こ……よう……?」
あまりの衝撃に、涙が一時停止した。
目の前には――画面の向こうにいたはずの江陽がいたのだ――。