大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
32.オレに、お前を守らせろ
「……江陽……?――な……んで……」

 私が、放心状態で、ポツリとつぶやくと、

「それは、こっちのセリフだ!」

 反射のように返される。
 あっけに取られ、涙は完全に止まった。
 江陽は、自分が入ってきたドアを見やり、しかめ面を見せる。

「ノックしようとしたら、お前が叫ぶ声が聞こえたんだよ。ドア、鍵かけてなかったから――」

「……え、でも……何で――ここが……」

「――片桐班長に、教えてもらって急いで来たんだよ。……聞いてねぇのかよ」

 ふてくされた表情が、あまりにもいつも通りで――。

「……片桐さん……?」

 私が呆然と彼を見やれば、困ったように肩をすくめられた。
「ごめんね、内密なのは、わかっていたんだけどさ。――ああ、言っておくけど、僕は、ずっと断り続けたんだからね?」
「え?」
「でも、彼、もう、何をし出すか、わからないような顔してたからさ――一応、社長に許可をもらって」
「――え……」
 そして、片桐さんは、私に穏やかな笑みを向けながら言った。

「後は、二人で話し合って。――まあ、危険を感じたら、すぐに警察に電話して良いからね」

「なっ……!」

 目を剥く江陽をそのままに、彼は、私達に背を向け、部屋のドアを開ける。

「ちょっ……片桐班長!!」

「あ――ありがとう、ございます……片桐さん……」

「――どういたしまして」

 そう言った彼の表情は――どこか、スッキリしたように見えた。


 少しの間、片桐さんをドアから見送った後、私は、江陽を振り返り、思い切り眉を寄せた。

「……アンタね……それ、通報事案じゃないの!」

「は?」

 あれだけ会いたかったのに――……顔を見た途端、湧いてきた感情が――怒りなんて――。


 ――なんて、私らしい。


「おい、羽津紀⁉」

「だって、そうじゃない!こっちは、アンタと会わないように、緘口令(かんこうれい)まで敷いてやってきたのに!ストーカーで通報されても、文句は言えないでしょうが!」

「だからって、あきらめきれるか!消えた理由もわからねぇで――納得できる訳無ぇだろうが!」

「会いたくないって、わかりなさいよ!」

「わかるか!――……そんな顔しておいて……っ……」

「――え」

 ――無意識のうちに、再びあふれてきた涙は、江陽がそっと指で拭った。

「……本当に嫌なら――もう、会わねぇ。……でもな――」

 そう言って、ヤツは、私に視線を向けた。
 その先は――大きくなったお腹だ。
 私は、急いで隠そうとするが、その手はしっかりと握られる。

「……今さら、隠せてねぇよ。――……オレとの子供、だろ……?」

 そう問いかけた江陽は、私をのぞき込み――

「……何で……泣いてんのよ、アンタ……」

「……うるせぇ……。自分でも、わからねぇよ……」

 そのまま私を抱き締める江陽の身体を、そっと押しのけようとするが、いやいやをするように首を振られる。
 仕方ないので、そのまま告げた。
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