大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「ただいま、陽花」

 そう言って、陽花を抱き上げた江陽は、いつものように、そのふっくらとした頬にキスをしようとするが――

「やー!」

 急に暴れた彼女に、ヤツはギョッとする。
「ど、どうした、陽花⁉」
「ちゅーは、だめなんだよー!」
「は⁉」
 私は、目を丸くしてソファに座ると、二人を見やる。
 陽花は無理矢理、江陽の手から逃れると、キッ、と、ヤツを見上げた。

たいと(・・・)くんが、いってたもん!ちゅーは、だいすきなひとと、するんだって!」

「陽花は、パパが、大好きじゃないのか⁉」
 ショックをうけたように、ヤツはしゃがみこみ、陽花をのぞき込む。

「……パパもすきだけど、たいとくんのほうが、もっとすきー」

 もじもじと打ち明ける彼女を見て、私は、ポカンと口を開けた。
 もう、そんな時期なのか。

 ――しかし、江陽は、それだけでは済まなかった。

 放心状態から、どうにか戻ってくると、陽花の両肩をつかみ、真剣な表情で言った。

「陽花。――今度、その、たいとくんやらを、ウチに連れてこい。パパが、ちゃんと、結婚相手にふさわしいか見極めてやるから」

「ちょっと、江陽!」

 私は、慌ててソファから立ち上がる。
 そして、ポカンとしている陽花を、ヤツから引き離した。

「何、バカな事言ってんのよ、アンタは!」

「だって、この先、オレより優先されたらショックじゃねぇか!」

 相変わらずの言い合いが始まろうとしたその時、私達の足元から、不機嫌な声が聞こえた。

「……パパ!たいとくん、いじめちゃ、ダメ!」
「え、いや、陽花。そういう訳じゃなくてな――」

 けれど、ジロリ、と、ヤツを見上げる陽花は――バッサリと言い切った。


「パパなんて、だいっきらい!!!」


 瞬間、絶望に打ちひしがれたような江陽の表情に――私は、吹き出してしまった。



 ダブルベッドの真ん中で、かわいい寝息を立てている陽花をのぞき込み、江陽は、大きくため息をつく。

「……いい加減にしなさいよ」

「だってよ……」

「陽花だって、保育園で、いろいろあるのよ」

 すると、ヤツは、ベッドを下りて私の隣に移動すると、布団にもぐり直す。
 そして、後ろからそっと抱き締めてきた。

「――でも、オレ達だって、保育園からだからな」
「……その、たいとくん、が、結婚相手だとでも?」
「だって、心配だろ⁉男親としてはさ」
「――……アンタねぇ……」
 私は、あきれながらも、江陽の腕に触れながら、後ろを見やる。

「あんまりしつこいと、陽花、本当に大嫌いになるわよ?」

 う、と、言葉に詰まった江陽は――けれど、ニヤリ、と、笑い、私の頬にキスをした。


「大嫌いって言われるのは――お前だけで充分だ」





 ――――――――大嫌い同士の大恋愛 ー結婚協奏曲ー

                    END
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