大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
「ママー、ただいまー!」
「ただいま、羽津紀ちゃん」
元気な声が、玄関から響き渡る。
私は顔を上げると、かけていたブルーライト用の眼鏡を置き、少しだけ目頭を押さえた。
パソコンに送られてきたデータ集計画面とにらみ合っていたせいか、目が痛い。
すると、リビングのドアが勢いよく開いた。
「ママー!」
「二人とも、お帰りなさい。ありがとうございます、お義母様。保育園まで、迎えに行っていただいて……」
「いいのよ、羽津紀ちゃん。私も、陽花ちゃんのお世話したいもの」
紆余曲折あって産まれた子供――陽花は、もう、四歳だ。
仕事に重心を置く私達は、この子の世話に、お互いの母親と保育園、ベビーシッター――いろいろな人の協力をお願いしている。
あれから、クーデターともとれる三ノ宮社長――お義父様の独立によって、サングループ内の勢力図が一気に変わったらしい。
どうも、以前から、その動きはあったようで、それが決定打になったようだった。
江陽の大叔父さんは、立場を追われ、今はひっそりと隠居生活を送っている。
陽花が生まれて半年後、一度だけ、家族で彼に会いに行った事があるのだ。
――仮にも血縁者。
陽花にとっては、私達の因縁など関係無く、血のつながりがあるのだから。
江陽は良い顔をしなかったが、ヤツと離れている時、母親やお義父様、お義母様に孫の顔を見せてあげたいと思っていた、その延長上だ。
大叔父さんは、以前のような険しさは変わらなかったが、陽花を抱かせた時の――一瞬だけ見せた、穏やか表情に、やはり、どこか江陽の血筋を感じたものだ。
――あの人がウチに執着してたのは――自分が独身のままで、子供がいなかったからかもしれねぇな……。
彼の屋敷を辞去する時、江陽がポツリとそう言った。
それで、今までの事が水に流せるかと言えば、できはしないだろうけれど――。
それでも……どんなにぶつかっても――折り合えるところがあるのなら――……。
私も江陽も、そう思えるようになったのは、陽花のおかげだろう。
「ママー、おしごと、おわった?」
「ええ、今日はおしまい」
ソファでパソコンを閉じた私の隣に来て、陽花は、にっこりと笑う。
そして――
「あかちゃん、はやく、うまれないかなー」
そう言って――私のお腹を撫でた。
あれから、片桐さんに仕事を引き継いでもらい、その後復帰した私は、長期ではなく、短期出張を繰り返すような形で、再び”開拓”を続けた。
私が留守にしている間に、班員は増え、今では六人の班の班長だ。
昇龍食品肝煎りの、ご当地調味料コラボ企画は好調で、今では立派な柱の一つになった。
そんな時――再びの妊娠。
けれど、あの時のような戸惑いや混乱も無く――穏やかに、リモートワークをしながら、仕事を続けている。
「ホラ、陽花ちゃん。ママの邪魔しちゃダメよ?おばあちゃまと一緒に遊びましょう?」
「えー!でも、ママおわったって、いったよー!」
「お義母様、大丈夫ですから」
「でもねぇ……そろそろ、臨月じゃない、羽津紀ちゃん」
弱りながら、陽花の好きなお菓子を持って来た亜澄さんは、そう言って、私のお腹に視線を向けた。
陽花が産まれて少ししてから、私達は、三ノ宮家に同居する事となった。
翔陽くんが、ちょうど大学入学で一人暮らしを始めたので、いい機会だったらしい。
「あずみちゃん、はるか、ママのじゃましてないもん!」
「まあまあ、そうね、ごめんなさいね。ホラ、陽花ちゃんの好きなクッキーよ?」
ぷう、と、頬を膨らませる陽花に、亜澄さんもメロメロのようで、あわあわと機嫌を取る。
どうやら、いつぞやの希望通り、本当に名前呼びをさせているので――嫁の立場としては、時々冷や冷やしてはいるが、本人はご機嫌だ。
そして――。
「ただいま、羽津紀、陽花」
「お帰りなさい、江陽」
「おかえりなさい、パパー!」
夕飯も終え、お風呂から上がった陽花を着替えさせていると、江陽がネクタイを緩めながら、リビングに入ってきた。
――今、ヤツは、”三ノ宮企画”で、お義父様の右腕として働いている。
その肩書は、営業部長。
結局、企画よりも営業の方が性に合っていたようで、お義父様が引き抜いてきた人達と切磋琢磨しながら、成長しているようだ。
「ただいま、羽津紀ちゃん」
元気な声が、玄関から響き渡る。
私は顔を上げると、かけていたブルーライト用の眼鏡を置き、少しだけ目頭を押さえた。
パソコンに送られてきたデータ集計画面とにらみ合っていたせいか、目が痛い。
すると、リビングのドアが勢いよく開いた。
「ママー!」
「二人とも、お帰りなさい。ありがとうございます、お義母様。保育園まで、迎えに行っていただいて……」
「いいのよ、羽津紀ちゃん。私も、陽花ちゃんのお世話したいもの」
紆余曲折あって産まれた子供――陽花は、もう、四歳だ。
仕事に重心を置く私達は、この子の世話に、お互いの母親と保育園、ベビーシッター――いろいろな人の協力をお願いしている。
あれから、クーデターともとれる三ノ宮社長――お義父様の独立によって、サングループ内の勢力図が一気に変わったらしい。
どうも、以前から、その動きはあったようで、それが決定打になったようだった。
江陽の大叔父さんは、立場を追われ、今はひっそりと隠居生活を送っている。
陽花が生まれて半年後、一度だけ、家族で彼に会いに行った事があるのだ。
――仮にも血縁者。
陽花にとっては、私達の因縁など関係無く、血のつながりがあるのだから。
江陽は良い顔をしなかったが、ヤツと離れている時、母親やお義父様、お義母様に孫の顔を見せてあげたいと思っていた、その延長上だ。
大叔父さんは、以前のような険しさは変わらなかったが、陽花を抱かせた時の――一瞬だけ見せた、穏やか表情に、やはり、どこか江陽の血筋を感じたものだ。
――あの人がウチに執着してたのは――自分が独身のままで、子供がいなかったからかもしれねぇな……。
彼の屋敷を辞去する時、江陽がポツリとそう言った。
それで、今までの事が水に流せるかと言えば、できはしないだろうけれど――。
それでも……どんなにぶつかっても――折り合えるところがあるのなら――……。
私も江陽も、そう思えるようになったのは、陽花のおかげだろう。
「ママー、おしごと、おわった?」
「ええ、今日はおしまい」
ソファでパソコンを閉じた私の隣に来て、陽花は、にっこりと笑う。
そして――
「あかちゃん、はやく、うまれないかなー」
そう言って――私のお腹を撫でた。
あれから、片桐さんに仕事を引き継いでもらい、その後復帰した私は、長期ではなく、短期出張を繰り返すような形で、再び”開拓”を続けた。
私が留守にしている間に、班員は増え、今では六人の班の班長だ。
昇龍食品肝煎りの、ご当地調味料コラボ企画は好調で、今では立派な柱の一つになった。
そんな時――再びの妊娠。
けれど、あの時のような戸惑いや混乱も無く――穏やかに、リモートワークをしながら、仕事を続けている。
「ホラ、陽花ちゃん。ママの邪魔しちゃダメよ?おばあちゃまと一緒に遊びましょう?」
「えー!でも、ママおわったって、いったよー!」
「お義母様、大丈夫ですから」
「でもねぇ……そろそろ、臨月じゃない、羽津紀ちゃん」
弱りながら、陽花の好きなお菓子を持って来た亜澄さんは、そう言って、私のお腹に視線を向けた。
陽花が産まれて少ししてから、私達は、三ノ宮家に同居する事となった。
翔陽くんが、ちょうど大学入学で一人暮らしを始めたので、いい機会だったらしい。
「あずみちゃん、はるか、ママのじゃましてないもん!」
「まあまあ、そうね、ごめんなさいね。ホラ、陽花ちゃんの好きなクッキーよ?」
ぷう、と、頬を膨らませる陽花に、亜澄さんもメロメロのようで、あわあわと機嫌を取る。
どうやら、いつぞやの希望通り、本当に名前呼びをさせているので――嫁の立場としては、時々冷や冷やしてはいるが、本人はご機嫌だ。
そして――。
「ただいま、羽津紀、陽花」
「お帰りなさい、江陽」
「おかえりなさい、パパー!」
夕飯も終え、お風呂から上がった陽花を着替えさせていると、江陽がネクタイを緩めながら、リビングに入ってきた。
――今、ヤツは、”三ノ宮企画”で、お義父様の右腕として働いている。
その肩書は、営業部長。
結局、企画よりも営業の方が性に合っていたようで、お義父様が引き抜いてきた人達と切磋琢磨しながら、成長しているようだ。