大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 私は、水滴のついたグラスを手にしたまま、視線を下げる。
 ――確かに、弟くんは、年の割には、時代錯誤な事を言うような印象はある。
 でも、それが、大叔父さんに刷り込まれたものだったのなら――彼だって、被害者だろう。

 ――結婚を、自分の意思で決められないなんて、おかしいじゃない。

「――だから、羽津紀……。もしかしたら、翔陽が、また会い来るかもしれねぇし、また、失礼な事言うかもしれねぇ」
「わかったわ。――まあ、できるだけ大人の対応を心掛けるわ」
 うなづいて返すが、心の中では苦笑いだ。
 先ほどの態度は棚に上げて、も、いいところだろう。
「頼む。――アイツには、オレからも言っておくから」
 江陽はそう言うと、目の前の鶏の唐揚げに手を伸ばす。
 すると、今まで黙って話を聞いていた聖が、口を開いた。

「ねえ、羽津紀、江陽クンー。……いっそ、既成事実作った方が、早くない?」

「「――……は???」」

 二人同時にポカンと聖を見る。

「……聖??」

 一体、何を言っているのかと思っていると、彼女は、名案、とばかりに続けた。

「え、だって、二人がまだ結婚してないから、つけいるスキがあると思われてるんじゃない?なら、もう、結婚しちゃえばー?」

「聖っ‼」

 ――そんな、簡単な問題じゃない!

 たしなめるように彼女を呼ぶと、トロン、と、した目でニッコリと微笑まれた。

「――ちょっと、アンタ、何飲んだの?」

 明らかに酔っぱらっている聖をギョッとして見やると、江陽が気まずそうにグラスを指さした。

「……お前のハイボールじゃねぇの……?」

「え」
 私は、聖が置いたグラスを見ると、ため息をつく。
 あのグラスは、ハイボール用。

 ――そして、聖は――ウイスキー系に弱い。

「聖、ホラ、お水飲んで!」
「ええー?何でぇー?」
「何ででも!ハイ!」
 無理矢理、お冷のグラスを持たせると、私は、ハア、と、うなだれた。
「……江陽……アンタ、気づいてたなら、止めなさいよ」
「いや、今、気づいた。――っつーか、お前が先に、グラス間違えたんじゃねぇのか?」
「――え」
 私は、自分の手元のグラスに顔を寄せる。
 すぐに漂う、レモンの香り――レモンサワーだ。
 上機嫌になっている聖を見やり、ため息をつく。
「……仕方ないわね。私が、責任持って連れ帰るわよ」
 そう言って、取り分けたサラダに手をつけ始めた聖の頭を、優しく撫でると、キョトンと返された。
「なーに、羽津紀?」
「食べたら、帰るわよ」
「ハーイ!でも、全部食べようよ。もったいないー」
「ハイハイ」
 甘えたように言うと、聖は、箸を進める。
 私は、二人いる妹のような感覚で、彼女を見やると、不意に、目の前の江陽が、ふてくされたように言った。
「……ちゃんと、オレが二人とも送るから」
「――……ありがと」
 それだけ言うと、私は、残りのアルコールを空け、頼んだ食事メニューを美味しくいただいたのだった。
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