大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
それから、無言のまま数分歩き、マンションに到着した。
けれど、私は、片桐さんと二人で歩みを止める。
「――江陽」
「……遅かったな」
マンション前で待っていた江陽は、不機嫌そうに片桐さんに視線を向ける。
「――送っただけだよ?」
「……わかってます」
「納得した表情してないけどね?」
からかうように口元を上げると、片桐さんは、そのまま、手を上げて帰って行った。
彼の住むところも、会社借り上げのマンションで、ここから数分のところだ。
一応、男性用、女性用と分かれている。
「……仕事、忙しそうだな」
「――ええ。……それが、何か?」
「……いや……毎日遅くなるようなら、オレ、待ってようか」
「いらないわよ。大体、アンタ、家が遠くなったんだから、早く帰りなさいよ」
突き放すような口調に、江陽は、ためらうように視線を逸らす。
けれど、すぐに私の方に向き直り、大きく息を吐いた。
「……江陽?」
「――……なあ、羽津紀。……結婚の前に――同棲、しねぇか」
「……は?」
――また、唐突に何を言い出した、この男は。
目を丸くした私に、ヤツは、畳みかけるように続ける。
「……こんな風に、遅くなったら心配になるし――……」
「でも、いつもの事じゃない。アンタも、わかってるでしょ」
「わかってる。――けど、オレが、我慢できねぇ」
「何よ」
いぶかし気に聞き返せば、そっと、手を握られた。
「……もう、離れたくねぇんだよ」
「――……江陽?」
「昨日の事は……オレも、考えなしだったかもしれねぇ。……でも、家に帰ったら、羽津紀に迎えてほしいって思ってるのも、正直な気持ちなんだよ」
私は、視線を下げる。
――江陽の家庭環境は承知している。
――だからこそ、コイツが、”家庭”というものに夢を見てしまうのも、わからなくもない。
――でも――。
「……江陽、悪いけど――私、アンタの望むような家庭は作れない」
「羽津紀」
動揺を見せる江陽を見られなくて、私は、うつむく。
「――ごめん、なさい」
「……そう、か。――……だよな。……お前、課長補佐、だもんな」
「そういう事じゃない。……いえ、それも、少しはあるけど……でも、私が無理なのは、自分の仕事を切り捨ててまで、アンタと家庭を作りたいと思う事」
「――……羽津紀……?」
動揺を見せる江陽を、見られない。
けれど――
――口に出して、言葉にして――ようやく、気がついた。
私には、この仕事が、捨てられないのだ。
私を認めてくれた課長や、企画課の皆さん。
今まで、作り上げた企画を、実際に商品にまで仕上げてくれた、開発や工場の皆さん。
――そして、社長。
これからの、江陽との未来よりも――私には、そちらの方が大事に思えるのだ。
――……江陽よりも――。
「――……羽津紀……」
「……ねえ、江陽。……もう一度……考え直してみない……?」
そんな私と、家庭を夢見るアンタと、折り合える箇所が本当にあるのか。
江陽は、何かを言いかけたが、口を閉じる。
――そして、何も告げず、背を向け去って行った。
けれど、私は、片桐さんと二人で歩みを止める。
「――江陽」
「……遅かったな」
マンション前で待っていた江陽は、不機嫌そうに片桐さんに視線を向ける。
「――送っただけだよ?」
「……わかってます」
「納得した表情してないけどね?」
からかうように口元を上げると、片桐さんは、そのまま、手を上げて帰って行った。
彼の住むところも、会社借り上げのマンションで、ここから数分のところだ。
一応、男性用、女性用と分かれている。
「……仕事、忙しそうだな」
「――ええ。……それが、何か?」
「……いや……毎日遅くなるようなら、オレ、待ってようか」
「いらないわよ。大体、アンタ、家が遠くなったんだから、早く帰りなさいよ」
突き放すような口調に、江陽は、ためらうように視線を逸らす。
けれど、すぐに私の方に向き直り、大きく息を吐いた。
「……江陽?」
「――……なあ、羽津紀。……結婚の前に――同棲、しねぇか」
「……は?」
――また、唐突に何を言い出した、この男は。
目を丸くした私に、ヤツは、畳みかけるように続ける。
「……こんな風に、遅くなったら心配になるし――……」
「でも、いつもの事じゃない。アンタも、わかってるでしょ」
「わかってる。――けど、オレが、我慢できねぇ」
「何よ」
いぶかし気に聞き返せば、そっと、手を握られた。
「……もう、離れたくねぇんだよ」
「――……江陽?」
「昨日の事は……オレも、考えなしだったかもしれねぇ。……でも、家に帰ったら、羽津紀に迎えてほしいって思ってるのも、正直な気持ちなんだよ」
私は、視線を下げる。
――江陽の家庭環境は承知している。
――だからこそ、コイツが、”家庭”というものに夢を見てしまうのも、わからなくもない。
――でも――。
「……江陽、悪いけど――私、アンタの望むような家庭は作れない」
「羽津紀」
動揺を見せる江陽を見られなくて、私は、うつむく。
「――ごめん、なさい」
「……そう、か。――……だよな。……お前、課長補佐、だもんな」
「そういう事じゃない。……いえ、それも、少しはあるけど……でも、私が無理なのは、自分の仕事を切り捨ててまで、アンタと家庭を作りたいと思う事」
「――……羽津紀……?」
動揺を見せる江陽を、見られない。
けれど――
――口に出して、言葉にして――ようやく、気がついた。
私には、この仕事が、捨てられないのだ。
私を認めてくれた課長や、企画課の皆さん。
今まで、作り上げた企画を、実際に商品にまで仕上げてくれた、開発や工場の皆さん。
――そして、社長。
これからの、江陽との未来よりも――私には、そちらの方が大事に思えるのだ。
――……江陽よりも――。
「――……羽津紀……」
「……ねえ、江陽。……もう一度……考え直してみない……?」
そんな私と、家庭を夢見るアンタと、折り合える箇所が本当にあるのか。
江陽は、何かを言いかけたが、口を閉じる。
――そして、何も告げず、背を向け去って行った。