大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
8.まさか、ウチのライバル企業とは
 ひとまず、江陽と意見のすり合わせができる事にホッとしながら、私は、昨日の四班の企画を朝から眺める。
 プライベートは、プライベート。
 今は、仕事だ。

 ――こんな風に考えてしまうのは、もう、仕方ない。

 譲れるところ、譲れないところをハッキリさせて、折り合っていかなければならない。
 江陽には、我慢させてしまうだろうけれど――。

「名木沢クン、ちょっと、良いかい?」

「ハイ」

 神屋課長に手招きされ、私は、立ち上がる。
 そして、会議スペースに入ると、小声で言われた。

「あのさ、社長から聞いたんだけど――サングループのコラボ企画の件……アレ、三ノ宮クンがらみみたいなんだよね」

「え」

「向こうの会長――三ノ宮クンの親戚の人かな?その人直々に、ウチとの取引を控えるように指示があったらしいんだけど――キミ、心当たりある?」

 その言葉に、心臓が冷えた。

 ――まさか。

 私の表情に気づいた課長は、苦々しく頭をかく。

「公私混同されると困るんだけど――それは、向こうさんの方みたいだね。キミ達の結婚、反対されてる訳?」

「……申し訳ありません……」

 それ以上、何も言えない。
 私が、江陽の大叔父さんに認められないという事は――こんなところにまで、影響するような事なのか。

 せっかく二人で考えようと約束した矢先に。

 視線を下げ、黙り込んだ私を、課長は、ため息交じりに見やる。
「――まあ、いろいろ事情はあるだろうけれど、腐らないんだよ」
「課長」
「今回は、ウチに非は無い。それは良いんだよね?」
 確認されるように言われ、ゆっくりとうなづく。
「――……心当たりはありますが、完全にプライベートです。仕事上では、ありません」
 言い切る私に、課長は、うなづいて返す。
「なら、良いよ。こう言っちゃ何だけど、コラボ企画の相手は、サングループに限った事じゃない。良い機会だし、他のトコにも営業かけるように、頼んでみるからさ」
「――ありがとうございます」
 私は、頭を下げ、先にスペースを出る。
 課内の視線が向くのに気づいたが、スルーし、席に戻ると、再び四班の企画書を読み始めた。


 お昼になり、聖が迎えに来るのを待っていたが、珍しく仕事が押しているのか、いつまで経っても姿を現さない。
 私は、お弁当を持つと、企画の部屋を出て、総務部に顔を出した。
「――あの……久保さんは……」
 近間にいた人に声をかければ、彼女は、チラリと部屋を見回し、首を振る。
「もう、出たみたいですけど」
「そう、ですか。ありがとうございます」
 頭を下げ、エレベーターへ向かう。
 すると、物置になっている部屋から、聖が姿を現した。

「――羽津紀」

「聖?」

 少しだけ動揺した彼女は、取り繕うように微笑む。
「ゴメンー。ちょっと、連絡しなきゃいけないトコがあってー」
 そう言って、手にしていたスマホを持ち上げた。
「――そうなの。先に行ったのかと思ったわ」
「そんなワケないでしょー」
 聖は、一緒に持っていたお弁当バッグを持ち直すと、ふざけながら私の腕にしがみつく。
「お昼は、江陽クンには譲らないんだからー」
「何言ってんのよ」
「――で、仲直りしたの?」
 のぞき込んできた聖に、私は、一瞬固まるが、苦笑いでうなづいた。
「……まあ……。でも、ケンカというよりは、意見の相違?」
「ふぅん。よくわかんないけど、アタシが気を遣う必要は無くなった?」
「――それは……ごめんなさい」
 眉を下げる私に彼女は、笑って返す。
 やっぱり、気を遣われていたようだ。
「良いよー。ま、羽津紀達は、ケンカするほど仲が良いってヤツだしねー」
「……うれしくないわね」
「ホントのコトでしょ?」
 思い当たる事があり過ぎるので、反論するのはやめる。
 そして、到着したエレベーターに、二人で乗り込み、お昼ご飯にするべく、休憩室に向かったのだった。
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