大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 放心状態のまま、どれだけ時間が過ぎたのか。
 私は、ようやく、よろよろと立ち上がる。


 ――見合い?
 ――結婚……?


 ――江陽が――私ではない、他の誰かと――……?


 そう、頭が認識した瞬間、胸がキツく締め付けられる。


 ――嫌。


 江陽は――私のもの、なのに。


 そして、かすめた――以前と同じ想い。
 アイツは、それを、うれしいと言った。
 ――好きだから。


 でも――他の誰かのものになったアイツに対し、そう思うのは、以前、ストーカーをしていた立岩(たていわ)さんと同じだ。
 それだけは、してはならないのに。
 私は、その場で突っ立ったまま、視線を下げる。

 ――でも。

 まだ、振られた訳でも、振った訳でもない。

 今、アイツの婚約者は――私なのだ。

 震えの止まらない手を握り締め、キツく目を閉じる。


 ――うーちゃん、大好き。


 昔も、今も、同じ言葉を私に与え続けてくれている江陽の気持ちを、どうして、疑える?


 顔を上げ、口元を引く。
 そして、スマホを手に取ると、私は、メッセージを送った。



 タクシーを降り、周囲を見渡す。
 以前、私と江陽とのお見合いの場だったホテルから、数百メートルほど離れた、同じような一流ホテル。
 そのエントランスをくぐり、館内案内図を見上げた。
 ドレスコードに引っかからないよう、シルク生地のブラウスとフレアスカートでどうにか取り繕い、聖に教わったメイクを悪戦苦闘しながら仕上げた。
 何とか、最低限見られるような姿になれたとは思うが――これからだ。
 江陽のお見合いの場を確認するため、亜澄さんにメッセージを送ると、やはり不本意なものだったようで、ご両親も江陽も、戸惑っているようだった。


 ――ごめんなさい、羽津紀ちゃん。叔父は、言い出すと聞かなくて――翔陽も良いように使われてしまっているの。
 ――江陽は、翔陽に頼まれて、仕方なく来たの。それは、誤解しないでね。


 亜澄さんからの返信に、ようやく、事態が飲み込めた。
 どうやら、翔陽くん経由でお見合いの場に駆り出されたようで、江陽の意思は、そこには無いのだ。
 それだけハッキリすれば――後は、どうにでもなれ、だ。

 私は、エレベーターで最上階、三十五階のレストランに向かった。
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