大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
最上階直通のエレベーターが到着し、ドアが緩々と開く。
静まり返った中、かすかな話し声が聞こえ、私は、恐る恐る中に入ろうとした。
「恐れ入ります。ご予約のお客様でしょうか」
すると、入り口で待機していた男性の係員に声をかけられ、思わず固まってしまった。
「あ、い、いえ」
「申し訳ありませんが、こちらは、ご予約のお客様のみのご利用をお願いしております」
「――そう、ですか」
「羽津紀ちゃん!」
圧に押され、踵を返そうとすると、中の方から聞き慣れた声で呼び止められた。
振り返れば、髪を上げた、着物姿の亜澄さんが小走りに駆け寄って来る。
係員は、彼女を見やると、一礼をして奥に戻ってくれた。
「亜澄さん」
「本当に来たのね!やっぱり、羽津紀ちゃんだわー!」
「え、あ、いえ、あの……」
彼女に場所を尋ねた時点で、来ると思われていたようだ。
そう、うれしそうに言われ、どうにも恥ずかしくなってしまい、私は、顔を伏せる。
「ちょうど良いわ。いっそ、叔父に会ってちょうだい。正式な婚約者なんだもの」
「いえ、でも、お相手の方もいらっしゃるでしょうし……」
「もう、お開きになるのよ。……江陽が、手に負えなくなちゃって……」
「え」
「何を言っても、笑顔を張り付けて、ええ、だけしか返さなくて――完全に営業状態なの。さすがに、先方も、これはおかしいと思ったらしくてねぇ……」
すると、亜澄さんは、スッと姿勢を正し、振り返る。
それは、私と話している時とは、全く違う、凛とした立ち姿で。
「――江陽、いらっしゃい。羽津紀さんが、迎えにいらしたわよ」
通る声で、奥へと声をかけると、ガタガタという音と、話し声。
そして、少しだけあせった江陽が、姿を現した。
「江陽」
「羽津紀――何で……」
その戸惑った口調に、一瞬、邪魔をしたのかという思いが頭をよぎる。
けれど、その顔は――泣きそうなそれで。
「……江陽、帰る……?」
恐る恐る尋ねれば、ヤツは、口元を引き深くうなづく。
そして、亜澄さんに視線を向けた後、私の手を取った。
「……帰る」
まるで、子供の頃のように返し、指を絡ませ、力を込める。
――やはり、不本意だったのだ。
「待て、江陽‼もう、式場も決めてあるんだぞ!」
すると、がなり立てるような声が奥から聞こえ、それと同時に姿を現した人物――。
「大叔父さん」
江陽は、私をかばうように前に立つと、目の前の紋付袴の、巨漢と言っていいような体格の老人をにらみつけた。
「言ったよな。オレは、羽津紀と結婚する。――アンタや、周りが認めなくても、構わねぇ」
「江陽!儂の顔をつぶす気か!」
「知ったコトかよ!勝手に人の家族をかき回した挙句、自分勝手に、オレに結婚相手だ⁉ふざけんな!」
「口の利き方もなってないとは――やはり、陽平は、女を見る目が無かったという事だな」
「――っ……!」
一瞬で言葉を失った江陽は、かすかに震えている。
――それは――心のどこかで、この老人を怖がっているという事……。
虚勢を張ってはみても、自分の家族を否定し続けられてきたのだ。
深い傷が刻み込まれているのだろう。
そう思ったら――苦しくなる。
――江陽には――そんな気持ちでいてほしくない。
――……私が、守らなくては。
「さっさと戻れ!これ以上、恥をかかせるな!」
当然のように、江陽が戻るとでも思っているのか、彼は、そう怒鳴り、踵を返す。
――その間、私が視界に入る事は無かったようだ。
「――う、羽津紀⁉」
「羽津紀ちゃん⁉」
江陽の手を離れた私は――拳を強く握り締め、”大叔父さん”の前に立ちはだかった。
静まり返った中、かすかな話し声が聞こえ、私は、恐る恐る中に入ろうとした。
「恐れ入ります。ご予約のお客様でしょうか」
すると、入り口で待機していた男性の係員に声をかけられ、思わず固まってしまった。
「あ、い、いえ」
「申し訳ありませんが、こちらは、ご予約のお客様のみのご利用をお願いしております」
「――そう、ですか」
「羽津紀ちゃん!」
圧に押され、踵を返そうとすると、中の方から聞き慣れた声で呼び止められた。
振り返れば、髪を上げた、着物姿の亜澄さんが小走りに駆け寄って来る。
係員は、彼女を見やると、一礼をして奥に戻ってくれた。
「亜澄さん」
「本当に来たのね!やっぱり、羽津紀ちゃんだわー!」
「え、あ、いえ、あの……」
彼女に場所を尋ねた時点で、来ると思われていたようだ。
そう、うれしそうに言われ、どうにも恥ずかしくなってしまい、私は、顔を伏せる。
「ちょうど良いわ。いっそ、叔父に会ってちょうだい。正式な婚約者なんだもの」
「いえ、でも、お相手の方もいらっしゃるでしょうし……」
「もう、お開きになるのよ。……江陽が、手に負えなくなちゃって……」
「え」
「何を言っても、笑顔を張り付けて、ええ、だけしか返さなくて――完全に営業状態なの。さすがに、先方も、これはおかしいと思ったらしくてねぇ……」
すると、亜澄さんは、スッと姿勢を正し、振り返る。
それは、私と話している時とは、全く違う、凛とした立ち姿で。
「――江陽、いらっしゃい。羽津紀さんが、迎えにいらしたわよ」
通る声で、奥へと声をかけると、ガタガタという音と、話し声。
そして、少しだけあせった江陽が、姿を現した。
「江陽」
「羽津紀――何で……」
その戸惑った口調に、一瞬、邪魔をしたのかという思いが頭をよぎる。
けれど、その顔は――泣きそうなそれで。
「……江陽、帰る……?」
恐る恐る尋ねれば、ヤツは、口元を引き深くうなづく。
そして、亜澄さんに視線を向けた後、私の手を取った。
「……帰る」
まるで、子供の頃のように返し、指を絡ませ、力を込める。
――やはり、不本意だったのだ。
「待て、江陽‼もう、式場も決めてあるんだぞ!」
すると、がなり立てるような声が奥から聞こえ、それと同時に姿を現した人物――。
「大叔父さん」
江陽は、私をかばうように前に立つと、目の前の紋付袴の、巨漢と言っていいような体格の老人をにらみつけた。
「言ったよな。オレは、羽津紀と結婚する。――アンタや、周りが認めなくても、構わねぇ」
「江陽!儂の顔をつぶす気か!」
「知ったコトかよ!勝手に人の家族をかき回した挙句、自分勝手に、オレに結婚相手だ⁉ふざけんな!」
「口の利き方もなってないとは――やはり、陽平は、女を見る目が無かったという事だな」
「――っ……!」
一瞬で言葉を失った江陽は、かすかに震えている。
――それは――心のどこかで、この老人を怖がっているという事……。
虚勢を張ってはみても、自分の家族を否定し続けられてきたのだ。
深い傷が刻み込まれているのだろう。
そう思ったら――苦しくなる。
――江陽には――そんな気持ちでいてほしくない。
――……私が、守らなくては。
「さっさと戻れ!これ以上、恥をかかせるな!」
当然のように、江陽が戻るとでも思っているのか、彼は、そう怒鳴り、踵を返す。
――その間、私が視界に入る事は無かったようだ。
「――う、羽津紀⁉」
「羽津紀ちゃん⁉」
江陽の手を離れた私は――拳を強く握り締め、”大叔父さん”の前に立ちはだかった。