大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 その後、結婚の話題には触れないよう、他愛無い話を続けながら、江陽は車を走らせ、マンションまで私を送ってくれた。
「じゃあ、また明日な」
「――ええ。……ありがとう、気をつけてね」
 車を降りて、そう告げれば、ヤツは片手を上げて返し、そのまま帰って行った。
 私は、それを見送ると、中に入る。

 ――何も変わらない日常。
 そこに、江陽が加わったのは、二年も前。

 いつの間にか、それが、日常と感じる程には、ヤツと一緒にいたのだ。

 ――なのに……。


「あ、お帰りー、羽津紀ー!」


 エレベーターを降りて部屋に向かう途中、聖の部屋のドアが開く。
 彼女は、いつものように、見惚れるような笑顔で迎えてくれた。

「――ただいま、聖」

 そんな聖に、どこかホッとして、私も笑顔で返した――つもりだったのだが。
 彼女は、その、形の良い眉を思い切り寄せた。
「聖?」
「――何か、あった?……羽津紀、落ち込んでるみたいだけど……」
「――……っ……」
 何で、この()は、こういう事に聡いんだろう。
 聖は、私をのぞき込むと、表情を曇らせる。
「……また、江陽クン、何かしたの?」
「……そういう訳じゃない、けど……」

 ――何かしたのは、ヤツの身内だ。

 そう返せず、私は、緩々と首を振る。
「大丈夫よ、聖。……ただ、ちょっと、自己嫌悪……みたいなもの」
 そして、笑みを張り付けて返し、部屋の鍵を差し込む。
 だが、その手は、彼女に止められた。
「聖?」
「――飲みに行こう、羽津紀!」
「え」
「悩んでいるなら、聞くよ?――何なら、楠川(くすかわ)クンも呼ぼうか?」
 そう言って、聖は、自分の部屋の中に入る。
「ち、ちょっと、聖⁉」
 慌てる私をよそに、あっという間に返信が来たようで、ニコニコとスマホを持って、彼女は戻って来た。
「楠川クン、大丈夫だってー。”縁故(えんこ)”で良い?」
「聖」
「こういう時の、親友でしょー?」
 彼女は、ニッコリと、笑ってみせる。
 私は、苦笑いでうなづいた。

「……もう……しょうがないわね……」

 まるで、聖のわがままを仕方なく聞いているようだが――それは、私のためなのだ。

 私は、一旦部屋に戻り、荷物を置くと、軽く身支度を整えて部屋を出た。
< 46 / 143 >

この作品をシェア

pagetop