大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
12.どう折り合いをつければ良いんだろう
「――で、結局、結婚話って、進んでいるのかな?」

 あらかた飲み終え、そろそろ、全員、良い具合にアルコールが回ってきた辺りで、楠川さんが本題を放り込んできた。
 私は、ぐ、と、喉を詰まらせる。
 (とお)っていたのは四杯目――ジントニック。
 どうにか飲み込むと、ジロリと、彼をにらみつけてしまった。
「……それは、どういう意味でしょうか」
「羽津紀ー、怒らない、怒らない。楠川クン、心配してるんだからさー」
 少々上機嫌になりながら、聖が、臨戦態勢になった私の腕に絡みつき、のぞき込んでくる。
 その、血色の良くなった肌に、眉を寄せた。
「聖……アンタ、何杯飲んだのよ」
「んー?いち、にー、さん……よん……?」
「今のヤツで五杯目だよ、聖ちゃん」
「あれー?」
 クスクスと笑い出す聖は、完全に酔っ払いコース。
 対して、楠川さんは、顔に表れていないのか、ザルなのか。
 平然とツッコミを入れると、私に視線を真っ直ぐに向けてきた。
「まあ、江陽の親友としては、気にかかるんだ。――昔のコト、聞いてるんだよね?」
 その言葉に、私の脳内は一瞬で冷える。

 ――それは。

「……ハイ。――……事件のこと、ですよね……」

 うなづいて返せば、彼は、口元を引き、うなづいた。
「うん。――知っているなら――オレの心配も、わかるよね」
「――……え、ええ。……それは……まあ……」
 ほんの少しの圧を感じ、口ごもりながらもうなづいて返す。
「ああいう事が、大なり小なり、ずっとあったヤツだからさ――羽津紀さんも、気にしてやってくれると助かるよ」
「ハイ」
 同い年の彼は、まるで、弟の事を話すように、江陽の心配をする。
 これまで、高校時代からの親友としか聞いていなかったけれど……監禁事件を知っているのなら、それは、ヤツが心を許しているという証だ。

「でも、まさか、”幼なじみの女の子”が、実在して、更に、結婚するとはねー」

「……は?」

 すると、急に話題を変えられ、私は、マヌケな返事しかできなかった。
 グラスを口にした彼は、ニコリと微笑む。
 どうやら、監禁事件の話題は、あまりしたくないようだ。
 ――私だって、できる事なら、聞きたくはない。
「あのさ、オレ達の高校、男子校って聞いてる?」
「あ、ハ、ハイ」
「でも、江陽って電車通学だったからさ――まあ、いろいろと狙われてね」
「――……え」
「クリスマスとバレンタイン――それに、どこで聞きつけたのか、誕生日前後も。ホラ、アイツ、”こどもの日”生まれだから、当日には会えないからさ」
 私は、おずおずとうなづく。

 ――できれば、誕生日の話題には触れられたくない。

 ――……何故なら、私も、同じ日なのだ。
 
 昔は、それもあって、からかいの的になったのだから。

 けれど、彼が、それを知る由は無い。
 複雑な心境のまま、続きを聞く事にする。

「で、わざと、電車を早くしたり、帰りを遅くしたりして、どうにか逃げ回ってたんだよ。オレも、それ手伝っててさ」
 それは――女性からのプレゼント抗戦だったのだろう。
「……それは……大変……でした、ね……」
「まあ、オレは、アイツを守る事に、妙な使命感を感じていたから」
「え?」
 キョトンとした私に、楠川さんは、頬杖をつくと、苦笑いで遠くを見やりながら言った。

「――コイツが、平穏な学生生活を送る事ができるように、オレが守ってやらないと――なんて、ね」

 一瞬、友情以上のものかと構えてしまったが、彼は、ニコリ、と、笑う。
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