大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「――泣かせたい訳じゃないんだけどね。……ごめん、言い方、キツくなったよね」

 プライベートの口調に変わった片桐さんを見上げ、私は、首を振る。

「いえ――すべて、私が不甲斐ないせいですから。……片桐さんのせいじゃ、ありません」

 そう言いながら涙をこすり、手元の書類をまとめて、ファイルボックスに戻す。
 未決の書類は――溜まっていく一方だ。
 それは、自分が、いかに結婚というものに振り回されているのかを、物語っているようで――焦燥感を覚えた。

「また、三ノ宮くんとゴタゴタしたのかな?」

 そんな私を見やり、片桐さんが尋ねる。
 私は、一瞬、手を止め――首を振った。

「……いえ」
「じゃあ、この前の弟くん?」
「……そういう、訳では……」
 ごまかすように机の上を片づけ、立ち上がると、持って来たイスを片づけた片桐さんは、少しだけ茶化すように言った。
「キミ、昔より、顔に出るようになったよね?ごまかしているの、バレバレだよ?」
「え」
「表情が豊かになった――っていうのかな。――……三ノ宮くんといるせいだろうけど」
 私は、驚いて、彼を見やる。
 そんな風に見られているなんて、思ってもみなかった。

「それで――今度は、何があったのかな?」

 有無を言わさない口調で尋ねられる。
 私から相談する形を取らせないのは、彼なりの、気の遣い方。
 それは――付き合っていた時と、変わらない。

 そう思ったら、もう、想いは、口からこぼれ落ちていた。

「――……結婚する意味が……わからなく、なりました……」

「え?」

 目を丸くした片桐さんに、私は、これまでの事を、かいつまんで説明する。
 徐々に表情を固くした彼は、聞き終えると、大きく息を吐く。

「……そんな事が本当にあるなんてね」

 そう言って、イス代わりに、机の上に腰をかけた片桐さんは、眉を寄せ、腕を組む。
「……私自身、結婚する事にこだわっている訳ではなくて……でも、江陽の気持ちを考えると、やっぱり、しなきゃいけないのかな、って、思ってしまって……」
「名木沢さん」
「え」

「結婚は――義務でするものでは無いよね?」

「――……っ……」

 私は、うつむいて、両手を握り締める。
 彼の言いたい事は、わかる。
 でも――私達の事情は、やっぱり、私達にしかわからないのだ。

「キミは――昔から、”恋人”の優先順位は低かったからね」

 からかうように言われ、恥ずかしさに身体が熱くなる。
 彼氏だった人から、そんな風に言われると、身の置き所に困ってしまう。
 罪悪感が無かったとは言わない。
 でも――やっぱり、仕事や、(親友)の方が、優先順位は高いのだ。

「――まあ、そんなキミだから――僕は、好きだったし――付き合っていきたいと思ってたけどね」

「――……片桐さん」

 今になって言われても――もう、心は動かない。

 彼も、それはわかっているようで、視線を向ければ、穏やかに微笑まれる。

 ――私達にとっては――もう――すべて、過去の事、なのだ。
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