大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 私は、バッグを持つと、企画課の部屋を出た。
 後ろからついて来た片桐さんと、エレベーターを待っている間、ポツリと、つぶやく。

「……私、本当に、江陽と結婚したいと思ってるんでしょうか……」

「――どういう意味?」

 エレベーターが到着し、二人で中に入る。
 片桐さんが、一階のボタンを押すのを見つめ、私は続けた。

「……江陽と一緒に生きていければ――別に、結婚しなくても良いと、思えるんです。……アイツの環境とか、立場とか考えたら、外野にいろいろ言われるくらいなら、って……」

「――彼を選んだ事を、後悔しているの?」

「そんな訳、無いです!」

 ――それとこれとは、別の話だ。

 片桐さんは、反射で叫んだ私の答えを聞き、微笑んでうなづいた。
「――だよね」
「……でも……アイツに似合わないとか、価値観が違うとか……今さらながら、いろいろあらわになってきてしまって……」
 すると、ポン、と、到着音が響き、扉が開く。
 二人でエレベーターから降りると、片桐さんは、先に降りた私に言った。

「――僕はさ、隣のF県の出身なんだよね」

「……は……?」

 不意打ちのように言われ、私は、目を丸くしながら、振り返った。

「両親は健在。仕事もしている。帰るのは盆と正月くらい。――五つ上の兄がいて、結婚もして子供は三人。実家の近くに一戸建てで住んでいて、親に何かあれば、駆け付けられる」

「……片桐さん……?」

 今いち、言いたい事がわからず、私は、眉を寄せる。
 けれど、彼は構わずに続けた。


「――どう?結婚相手の条件としては、悪くないんじゃないかな?」


「――え」


 私は、足を止め、彼に真正面から向かい合う。


 ――そして、その、試すような視線に、真っ直ぐ返した。


「――そんな条件、私には必要ありません。結婚したいのは――江陽が、江陽だからです」


 そう言い切って――目を見開いた。


 ――ああ、そうだ。

 ――……私は――ただ、江陽が好きで、一生、一緒にいたいと思えたからで――……。


 そんな私の脳内を見透かしたように、片桐さんは口元を上げた。

「……ありがとうございます……」

「――やっぱり、変わったね、キミ」

「え?」

 キョトンとして返せば、彼は、優しく――穏やかに微笑む。

「――素直に、自分の気持ちを言えるようになった」

 私は、昔の意地を張りまくっていた頃を思い出し、身を縮こませる。
 でも――……。

「……だとしたら……きっと、皆さんのおかげです」

 二年前、頑なだった私を取り巻く環境が、劇的に変わって――そして、その経験が、私を変えたのだ。

 そして、その中心は――江陽だった。

「――そこに、僕が含まれているのなら、光栄だね」

「もちろんです」

 私は、口元を上げ、うなづいた。


 ――あなたから教わった事は――私の中で、ちゃんと、生きています。


 口には出さない感謝の言葉は――けれど、彼には伝わっていると、思いたかった。
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