大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「それじゃあ、お疲れ様」

「お疲れ様でした。――おやすみなさい」

 私が頭を下げると、片桐さんは、手を上げて男性寮へと去って行った。
 それを見送り、部屋へ帰る。
 今日、聖は二日酔いがひど過ぎて、終業とともにダッシュで帰宅していった。
 ――一応、様子を見ておこうか。
 そう思い、エレベーターから降りると、聖の部屋のインターフォンを鳴らす。
 少し待ってみるが、中から気配は感じられない。

 ……寝てるのかしら。

 ――吐いていなければ良いのだけれど。

 久々に深酒をしてしまったのだ。
 身体がついていかないのは、わかっている。

 ――いよいよ、目に見えて、若い頃とは変わってきているのだ。

 この先、同じようにしていれば、もたないだろう。

 ……居酒屋通いも、そろそろ、卒業しないとかしら。

 聖と二人で”縁故”に通っていたのは、新人の頃から。
 近間で食事ができる、アルコール類もある、と、何かあれば行っていた。
 でも――江陽と結婚するとなると、もう、今までと同じようにはできない。

 そういう事も、結婚をためらってしまう要因の一つ。
 ――自分の今までの暮らしが、変わってしまう。
 それを、受け入れる事ができるのか――。

「……本当に……結婚、できるのかしら……」

 思わずつぶやいてしまった言葉は――以前と同じ。
 でも、その心境は、以前とは違う。

 ――絶対に、結婚する。

 それが――江陽の望みで、私だって、望んでいる事なのだから。


 帰ってから、ひと通り、いつものように夕飯を終え、雑事を終了。
 気がつけば、既に時刻は十時半を過ぎていた。
 私は、テーブルの上に置いていたスマホを手に取った。

 ――珍しい。

 江陽からの連絡は、この時間になっても無かった。
 いつもなら、仕事が押していても、隙を見て簡単なメッセージを送って来るのに。
 そう思った瞬間、先日のゴタゴタが脳裏をよぎった。

 ――まさか、また、面倒な事になっていないでしょうね……。

 私は、念のため、江陽にメッセージを送ってみるが、返信は無い。
 この時間だ。亜澄さんには、連絡できない。
 それに、まだ、月曜。
 明日になれば、平然と出勤してくるだろう。

 ――……そう、思っていた。
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