大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
14.もう、何もかも、遅かったんだろうか……
「――……無断欠勤……?」
翌朝、出勤後、江陽の姿を探してみるが、企画の方には来ていなかった。
また、直接どこかに行っているのかとも思ったが、十時を過ぎたあたりで神屋課長に呼ばれ、そう告げられた。
「名木沢クン、何か聞いていない?」
「……いえ……特には……」
弱った課長は、席に着いたままチラリと私を見上げる。
「……また、面倒な事になってる?」
「……それについては、私からは何とも」
二年前の事件も、先日の事も、江陽が音信不通になった事から露呈したのだ。
――嫌な予感しかしないが、仕事を放置する訳にもいかない。
「これから、三ノ宮くんに、連絡取ってもらっても良いかな。欠勤なら、申請してもらわないとだし」
「――承知しました」
私はうなづくと、課長に頭を下げ、席に戻りスマホを取り出す。
そして、部屋を出ると同時に、江陽の番号を出した。
メッセージが確認できないのなら、通話だ。
スマホを耳に当てながら、サンプル室に入る。
その間も、コール音だけが響き渡るだけだ。
――……やっぱり、亜澄さんに――。
そう思った瞬間、耳に届いた声。
『こんにちは、名木沢羽津紀さん』
「――……は?」
明らかに性別は女。
私は、すぐにスマホを耳から離し、画面を確認するが――番号は江陽のものだ。
『すみません、今、江陽さん、お仕度をしている最中です』
「……え……っと……?」
――支度?何の?
――そもそも、アンタは、誰なのよ。
すると、声の主は、控えめに――けれど、強い意思を持って私に告げた。
『先日お会いしました、叶津妙子です。――江陽さんの、お見合い相手の』
「……え?」
名前を聞いた途端、先日、お祖父さんの陰に隠れていた若い女性を思い出す。
――あの時の。
けれど、その彼女が、何故、今、この電話に出ているのか。
「……あ、あの、江陽は――」
『お仕事の事でしたら、退社届は、近日中にそちらに送られるかと思いますが――』
――……は??
――……退社?
――……何の、事?
唐突に告げられる内容に、頭がついていかない。
彼女は、そんな私を気遣うように続けた。
『申し訳ありません。……江陽さんは、私との結婚をお望みになりました』
「――……え……??」
『サングループの経営権を、すべて彼のお父様に譲り、以降、ご家族の事に口を出さないという条件で、大叔父様とお話がついたようです』
淡々と告げられる言葉は――真実なのか。
「……そんな、事――私、何も聞いていないんですが……」
かろうじて反論しようとするが、淡々と返される。
『この先、もう、彼がお会いする事も無いと思いますので、私の方から申し上げます。――私、先日のお見合いの席で、江陽さんに一目惚れいたしました。ですので、結婚のお話を進めておりまして、もう、式場の手配なども始めております』
「……は……??」
もう、完全に頭は真っ白。
そんな私を憐れむように、彼女は言った。
『手切れ金は、後ほど、そちらに送られると思いますので、お受け取り頂けますよね』
柔らかい口調なのに――その内容は、ふざけるな、と、叫びたいものだ。
「ち、ちょっと、いい加減にして!まず、江陽を出しなさいよ!話は、アイツから、直接聞くわ‼」
これまでの経験から、又聞きの話を、頭から信じる事はできないと知っている。
――江陽から、聞かなければ。
それまでは――アイツを信じていたい。
『――申し訳ありません。彼が、秘密裏にあなたと繋がったままというのは、外聞が悪いので、この番号もすぐに停止いたしますね』
「ちょっ……!」
こちらの言い分など、聞こうともしない。
――ああ、あの大叔父さんと一緒か。
ああいう種類の人間は、多かれ少なかれ、存在するのね――。
私は、通話終了の音が鳴ったままのスマホを握り締める。
――冗談じゃないわ。
江陽が、条件を呑んだという事は――きっと、何かあったのだ。
それに、アイツの気持ちを彼女は言っていない。
結婚する。それだけだ。
――アイツが、彼女を好きだとは、一言も言っていないのだから――
――私が信じるべきは、江陽だけだ。
そう、心に決め、スマホを握り直し――電話をかけた。
翌朝、出勤後、江陽の姿を探してみるが、企画の方には来ていなかった。
また、直接どこかに行っているのかとも思ったが、十時を過ぎたあたりで神屋課長に呼ばれ、そう告げられた。
「名木沢クン、何か聞いていない?」
「……いえ……特には……」
弱った課長は、席に着いたままチラリと私を見上げる。
「……また、面倒な事になってる?」
「……それについては、私からは何とも」
二年前の事件も、先日の事も、江陽が音信不通になった事から露呈したのだ。
――嫌な予感しかしないが、仕事を放置する訳にもいかない。
「これから、三ノ宮くんに、連絡取ってもらっても良いかな。欠勤なら、申請してもらわないとだし」
「――承知しました」
私はうなづくと、課長に頭を下げ、席に戻りスマホを取り出す。
そして、部屋を出ると同時に、江陽の番号を出した。
メッセージが確認できないのなら、通話だ。
スマホを耳に当てながら、サンプル室に入る。
その間も、コール音だけが響き渡るだけだ。
――……やっぱり、亜澄さんに――。
そう思った瞬間、耳に届いた声。
『こんにちは、名木沢羽津紀さん』
「――……は?」
明らかに性別は女。
私は、すぐにスマホを耳から離し、画面を確認するが――番号は江陽のものだ。
『すみません、今、江陽さん、お仕度をしている最中です』
「……え……っと……?」
――支度?何の?
――そもそも、アンタは、誰なのよ。
すると、声の主は、控えめに――けれど、強い意思を持って私に告げた。
『先日お会いしました、叶津妙子です。――江陽さんの、お見合い相手の』
「……え?」
名前を聞いた途端、先日、お祖父さんの陰に隠れていた若い女性を思い出す。
――あの時の。
けれど、その彼女が、何故、今、この電話に出ているのか。
「……あ、あの、江陽は――」
『お仕事の事でしたら、退社届は、近日中にそちらに送られるかと思いますが――』
――……は??
――……退社?
――……何の、事?
唐突に告げられる内容に、頭がついていかない。
彼女は、そんな私を気遣うように続けた。
『申し訳ありません。……江陽さんは、私との結婚をお望みになりました』
「――……え……??」
『サングループの経営権を、すべて彼のお父様に譲り、以降、ご家族の事に口を出さないという条件で、大叔父様とお話がついたようです』
淡々と告げられる言葉は――真実なのか。
「……そんな、事――私、何も聞いていないんですが……」
かろうじて反論しようとするが、淡々と返される。
『この先、もう、彼がお会いする事も無いと思いますので、私の方から申し上げます。――私、先日のお見合いの席で、江陽さんに一目惚れいたしました。ですので、結婚のお話を進めておりまして、もう、式場の手配なども始めております』
「……は……??」
もう、完全に頭は真っ白。
そんな私を憐れむように、彼女は言った。
『手切れ金は、後ほど、そちらに送られると思いますので、お受け取り頂けますよね』
柔らかい口調なのに――その内容は、ふざけるな、と、叫びたいものだ。
「ち、ちょっと、いい加減にして!まず、江陽を出しなさいよ!話は、アイツから、直接聞くわ‼」
これまでの経験から、又聞きの話を、頭から信じる事はできないと知っている。
――江陽から、聞かなければ。
それまでは――アイツを信じていたい。
『――申し訳ありません。彼が、秘密裏にあなたと繋がったままというのは、外聞が悪いので、この番号もすぐに停止いたしますね』
「ちょっ……!」
こちらの言い分など、聞こうともしない。
――ああ、あの大叔父さんと一緒か。
ああいう種類の人間は、多かれ少なかれ、存在するのね――。
私は、通話終了の音が鳴ったままのスマホを握り締める。
――冗談じゃないわ。
江陽が、条件を呑んだという事は――きっと、何かあったのだ。
それに、アイツの気持ちを彼女は言っていない。
結婚する。それだけだ。
――アイツが、彼女を好きだとは、一言も言っていないのだから――
――私が信じるべきは、江陽だけだ。
そう、心に決め、スマホを握り直し――電話をかけた。