大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
「――……ごめん……羽津紀。……アタシ、江陽クン、殴ってやりたいんだけど」
怒りをあらわにした聖は、少々その美しさを崩す勢いで顔をしかめた。
「――……と言っても、もう、会う事も無いみたいだけれどね……」
そう、自分で自分を刺す言葉を口にしてしまう。
――まあ……会いたくても、会えない、というのが真実だろうけれど。
「でもでも!――ご家族の事はしょうがないにしても……一方的すぎない⁉」
「落ち着いて、聖」
「ていうか、羽津紀は何で落ち着いてるのよ⁉」
「――……アンタが怒ってるからじゃない」
私の事なのに、自分の事の様に怒ってくれる。
そんな親友がいてくれて――私は、幸せ者だ。
聖は、怒りを隠さないまま、立ち上がった。
「羽津紀、今度、アタシが合コンセッティングしてあげるからさ!あんな薄情な男、忘れようよ!」
「……ありがとう、聖」
「羽津紀……」
私は、彼女にお礼だけを言う。
――でも、今は、まだ、忘れるとかの段階じゃない。
江陽からは、何も聞いていない。
それが、私の中で事実を消化しきれない原因。
すべては、又聞き。
――だから――まだ……私は、未練がましく、アイツを信じていたいと思ってしまうのだ。
聖に続き立ち上がると、仕事用のバッグを持つ。
今日は、お昼はコンビニだ。
「そろそろ出ましょう。遅刻するわよ」
「……うん……」
私は、不服そうにうなづく聖の背中をトントンと叩き、促す。
すると、彼女は両手を握り締め、私に言った。
「羽津紀、失恋に関してだけは、アタシが先輩だからね!」
「威張らないでよ」
「だから、安心して。――気持ちは、嫌って程にわかるからさ」
そう言って、聖は微笑む。
虚勢を張っているのは、お見通しらしい。
私は、苦笑いでうなづいた。
「……頼りにしてるわね」
「――うん」
そして、二人、ポツポツと他愛無い話をしながら、出勤した。
江陽の退社届は、週末には会社に届いたらしい。
直後に社長に呼ばれ、事情を確認されたけれど、詳しい事はわからない、で、通した。
どうやら三ノ宮社長に結婚の話は聞いていたようで、てっきり、私との事だと思ってらしたようだった。
――何で、こんな事になったんだろうねぇ……。
肩を落とした社長は、いつもよりも数倍老けて見え――だが、年齢的には、こちらの方が合っているのだと、妙に腑に落ちてしまった。
幸いなのか、もう、お盆休みも間近で、いよいよ過密スケジュールが始まろうかという頃だったので、私は、連日の残業。
その間だけは――江陽の事を思い出さずに済んだ。
そんな仕事の仕方はしたくはなかったけれど――。
「これで、決定で良いと思います」
先日から詰めていた、四班の企画書類に判を押すと、片桐さんに手渡した。
「――ありがとうございます。じゃあ、課長がOK出したら、本格始動という事で」
彼は、うれしそうにうなづいて返す。
肝煎り、と、言うだけあって、相当プレッシャーがかかっていたのだろう。
「よろしくお願いします」
私は、そう告げると、自分の席に戻る。
そして、次々とやって来る企画書類に目を通した。
年末年始や、来年の春に向けてのものが増え、ふと、手が止まる。
――……この頃には――もう、アイツは結婚していて――
――私は、それを、何とも思わなくなるのだろうか――……。
そう思うと、激しい痛みが胸を刺す。
深呼吸して逃し、再び目を落とすが、集中力は切れてしまう。
私は、無意識に、腫れぼったくなった目をこする。
毎晩泣き続けた目は、それが普通になってしまい、誰も何も言ってはこなくなった。
最初こそ、私を見れば、噂話の的にしていた周りの人間も、今では元通りだ。
――きっと、世間一般では、よくある話なんだろう。
興味が湧くのも一瞬――冷めるのも、一瞬。
他人の恋愛よりも、自分の事。
そんな人達ばかりで、多少は気が楽だ。
アイツのスマホは、既に解約されたようで、時折電話をかけても、現在使われておりません、と、アナウンスが流れるばかり。
亜澄さんの言うとおりなら、もう、私が江陽一家に接触する事はできない。
どんなに会いたくても――
――もう、会えない。
その事実ばかりが重くのしかかって、動く事は――かなわなかった。
怒りをあらわにした聖は、少々その美しさを崩す勢いで顔をしかめた。
「――……と言っても、もう、会う事も無いみたいだけれどね……」
そう、自分で自分を刺す言葉を口にしてしまう。
――まあ……会いたくても、会えない、というのが真実だろうけれど。
「でもでも!――ご家族の事はしょうがないにしても……一方的すぎない⁉」
「落ち着いて、聖」
「ていうか、羽津紀は何で落ち着いてるのよ⁉」
「――……アンタが怒ってるからじゃない」
私の事なのに、自分の事の様に怒ってくれる。
そんな親友がいてくれて――私は、幸せ者だ。
聖は、怒りを隠さないまま、立ち上がった。
「羽津紀、今度、アタシが合コンセッティングしてあげるからさ!あんな薄情な男、忘れようよ!」
「……ありがとう、聖」
「羽津紀……」
私は、彼女にお礼だけを言う。
――でも、今は、まだ、忘れるとかの段階じゃない。
江陽からは、何も聞いていない。
それが、私の中で事実を消化しきれない原因。
すべては、又聞き。
――だから――まだ……私は、未練がましく、アイツを信じていたいと思ってしまうのだ。
聖に続き立ち上がると、仕事用のバッグを持つ。
今日は、お昼はコンビニだ。
「そろそろ出ましょう。遅刻するわよ」
「……うん……」
私は、不服そうにうなづく聖の背中をトントンと叩き、促す。
すると、彼女は両手を握り締め、私に言った。
「羽津紀、失恋に関してだけは、アタシが先輩だからね!」
「威張らないでよ」
「だから、安心して。――気持ちは、嫌って程にわかるからさ」
そう言って、聖は微笑む。
虚勢を張っているのは、お見通しらしい。
私は、苦笑いでうなづいた。
「……頼りにしてるわね」
「――うん」
そして、二人、ポツポツと他愛無い話をしながら、出勤した。
江陽の退社届は、週末には会社に届いたらしい。
直後に社長に呼ばれ、事情を確認されたけれど、詳しい事はわからない、で、通した。
どうやら三ノ宮社長に結婚の話は聞いていたようで、てっきり、私との事だと思ってらしたようだった。
――何で、こんな事になったんだろうねぇ……。
肩を落とした社長は、いつもよりも数倍老けて見え――だが、年齢的には、こちらの方が合っているのだと、妙に腑に落ちてしまった。
幸いなのか、もう、お盆休みも間近で、いよいよ過密スケジュールが始まろうかという頃だったので、私は、連日の残業。
その間だけは――江陽の事を思い出さずに済んだ。
そんな仕事の仕方はしたくはなかったけれど――。
「これで、決定で良いと思います」
先日から詰めていた、四班の企画書類に判を押すと、片桐さんに手渡した。
「――ありがとうございます。じゃあ、課長がOK出したら、本格始動という事で」
彼は、うれしそうにうなづいて返す。
肝煎り、と、言うだけあって、相当プレッシャーがかかっていたのだろう。
「よろしくお願いします」
私は、そう告げると、自分の席に戻る。
そして、次々とやって来る企画書類に目を通した。
年末年始や、来年の春に向けてのものが増え、ふと、手が止まる。
――……この頃には――もう、アイツは結婚していて――
――私は、それを、何とも思わなくなるのだろうか――……。
そう思うと、激しい痛みが胸を刺す。
深呼吸して逃し、再び目を落とすが、集中力は切れてしまう。
私は、無意識に、腫れぼったくなった目をこする。
毎晩泣き続けた目は、それが普通になってしまい、誰も何も言ってはこなくなった。
最初こそ、私を見れば、噂話の的にしていた周りの人間も、今では元通りだ。
――きっと、世間一般では、よくある話なんだろう。
興味が湧くのも一瞬――冷めるのも、一瞬。
他人の恋愛よりも、自分の事。
そんな人達ばかりで、多少は気が楽だ。
アイツのスマホは、既に解約されたようで、時折電話をかけても、現在使われておりません、と、アナウンスが流れるばかり。
亜澄さんの言うとおりなら、もう、私が江陽一家に接触する事はできない。
どんなに会いたくても――
――もう、会えない。
その事実ばかりが重くのしかかって、動く事は――かなわなかった。