大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
16.一生、大嫌い
「――……これで、終了、です……」
「……おう……お疲れさん……」
大きく息を吐きながら、書類の束を神屋課長に手渡す。
課長も、疲れ果てた表情を隠そうともせず、それを受け取った。
企画課としては、お盆前だろうが通常運転なのだけれど、その次の段階である工場や広報関係のスケジュールが厳しいので、こちらも詰まってくるのだ。
各班ごと、進捗は月初めに出てはいるが――予定は未定な部分も多い。
ひとまず、喫緊の案だけをチェックし、業務終了。
思う通りにいかない事は織り込み済みとはいえ、精神的に疲れてしまった。
「後は、休み明けだな」
「ハイ」
私は、課長に頭を下げ、席に戻ると、帰り支度を始める。
聖は、実家に帰るそうなので、もう出ている頃だろう。
「じゃあ――お先に失礼します」
「ああ、気をつけてな」
書類に目を通しながら、片手を上げる課長に、再び頭を下げるとエレベーターで一階へ。
「お疲れ様」
「――片桐さん」
すると、ロビーにあるソファに座っていた片桐さんが、立ち上がって、こちらにやって来た。
「……お疲れ様です。もう、お帰りになったかと」
「――いや、帰省は一泊だしね。――……それより、キミの方が気にかかってさ」
「え」
彼を見上げれば、穏やかに――けれど、悲しそうに、微笑まれた。
「……ゴメンね、三ノ宮くんの事、久保さんから聞き出した」
「え」
「彼女、キミに許可なく言えないって渋ってたんだけど――僕も、事情は知っているからって、言ってさ」
理詰めの説得に、聖が折れただろう事は想像がつくので、首を振って返す。
「……気にしないでください。……いずれは、わかる事ですから……」
「――……そう」
片桐さんは、視線を前に向けると、ポツリと言った。
「……彼に言いたい事は山ほどあるけど、会えない事にはね……」
私は、片桐さんの言葉に、目を伏せる。
「……もう、良いんです……」
「名木沢さん」
「――……片桐さん、以前、私、言いましたよね。……結婚するのに、条件なんて必要ないと――」
――江陽が、江陽だから――。
それが、すべてだと。
「……そうだったね」
彼の言葉にうなづくと、視線を下げたまま、続けた。
「――でも、アイツにとって――私は、条件を積まれれば、別れられる女だったんですよ」
「名木沢さん、それは――」
「違うとでも?」
まるで、江陽の代弁者のように、言い訳をしようとする片桐さんを見上げ――にらみつけてしまった。
「もう、アイツは、違う世界の人間になったんです。――お互いの気持ちだけで、結婚を決めるような世界ではなくて――家の都合、権力の都合が優先される――そんな、訳のわからない世界で生きているんです!」
「――名木沢さん、もう、いいよ。……もう、言わなくて――」
「何でですか、事実ですよ!――……結局、私なんて、所詮……そっの……てい、どのっ……」
そう言いかけ、片桐さんの大きな手が自分の頬を包むのに気がつく。
そして、彼は、私を諭すように言った。
「……自分を傷つけるような言葉を、自分で言わなくて良いんだよ」
「――そん、な、事……」
反論は、あふれてきた涙に飲み込まれた。
「――……っ……」
私は、そのまま唇を噛みしめ耐える。
――本当は、わかってる。
――……アイツが、家族の為に不本意な選択をしたという事は。
けれど、アイツの気持ちが、まだ、私にあるのかなど、知るすべも無い。
だから、そうでも思わなければ――もう、私の心が壊れそうなのだ。
毎日毎日、呪文のように繰り返して、自分を納得させようとしているのに。
――何で、この人には、わかってしまうんだろう。
「……おう……お疲れさん……」
大きく息を吐きながら、書類の束を神屋課長に手渡す。
課長も、疲れ果てた表情を隠そうともせず、それを受け取った。
企画課としては、お盆前だろうが通常運転なのだけれど、その次の段階である工場や広報関係のスケジュールが厳しいので、こちらも詰まってくるのだ。
各班ごと、進捗は月初めに出てはいるが――予定は未定な部分も多い。
ひとまず、喫緊の案だけをチェックし、業務終了。
思う通りにいかない事は織り込み済みとはいえ、精神的に疲れてしまった。
「後は、休み明けだな」
「ハイ」
私は、課長に頭を下げ、席に戻ると、帰り支度を始める。
聖は、実家に帰るそうなので、もう出ている頃だろう。
「じゃあ――お先に失礼します」
「ああ、気をつけてな」
書類に目を通しながら、片手を上げる課長に、再び頭を下げるとエレベーターで一階へ。
「お疲れ様」
「――片桐さん」
すると、ロビーにあるソファに座っていた片桐さんが、立ち上がって、こちらにやって来た。
「……お疲れ様です。もう、お帰りになったかと」
「――いや、帰省は一泊だしね。――……それより、キミの方が気にかかってさ」
「え」
彼を見上げれば、穏やかに――けれど、悲しそうに、微笑まれた。
「……ゴメンね、三ノ宮くんの事、久保さんから聞き出した」
「え」
「彼女、キミに許可なく言えないって渋ってたんだけど――僕も、事情は知っているからって、言ってさ」
理詰めの説得に、聖が折れただろう事は想像がつくので、首を振って返す。
「……気にしないでください。……いずれは、わかる事ですから……」
「――……そう」
片桐さんは、視線を前に向けると、ポツリと言った。
「……彼に言いたい事は山ほどあるけど、会えない事にはね……」
私は、片桐さんの言葉に、目を伏せる。
「……もう、良いんです……」
「名木沢さん」
「――……片桐さん、以前、私、言いましたよね。……結婚するのに、条件なんて必要ないと――」
――江陽が、江陽だから――。
それが、すべてだと。
「……そうだったね」
彼の言葉にうなづくと、視線を下げたまま、続けた。
「――でも、アイツにとって――私は、条件を積まれれば、別れられる女だったんですよ」
「名木沢さん、それは――」
「違うとでも?」
まるで、江陽の代弁者のように、言い訳をしようとする片桐さんを見上げ――にらみつけてしまった。
「もう、アイツは、違う世界の人間になったんです。――お互いの気持ちだけで、結婚を決めるような世界ではなくて――家の都合、権力の都合が優先される――そんな、訳のわからない世界で生きているんです!」
「――名木沢さん、もう、いいよ。……もう、言わなくて――」
「何でですか、事実ですよ!――……結局、私なんて、所詮……そっの……てい、どのっ……」
そう言いかけ、片桐さんの大きな手が自分の頬を包むのに気がつく。
そして、彼は、私を諭すように言った。
「……自分を傷つけるような言葉を、自分で言わなくて良いんだよ」
「――そん、な、事……」
反論は、あふれてきた涙に飲み込まれた。
「――……っ……」
私は、そのまま唇を噛みしめ耐える。
――本当は、わかってる。
――……アイツが、家族の為に不本意な選択をしたという事は。
けれど、アイツの気持ちが、まだ、私にあるのかなど、知るすべも無い。
だから、そうでも思わなければ――もう、私の心が壊れそうなのだ。
毎日毎日、呪文のように繰り返して、自分を納得させようとしているのに。
――何で、この人には、わかってしまうんだろう。