大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 取り乱しそうになった翔陽くんに、片桐さんが、なだめるように尋ねた。
 いくら弁が立とうが、まだ、高校生。動揺を隠しきれないようだった。
「……そ、れは……」
「――一応、僕も事情は多少聞いているからね。他言無用なら、必ず守るよ」
 私は、片桐さんに視線を向けると、真剣な表情でうなづかれた。
 ――こういう時でも、感情的にならずにいられるのは、さすがだ。
 翔陽くんは、しばらく躊躇していたが、ポツリとつぶやいた。

「――……今まで、僕は……全部、大叔父さんの言う通りにしていれば、いずれ、家族も認められて、みんな幸せになれると信じて疑ってなかった。――……昔から、ずっとそう言われ続けてきたから……」

 それは――まるで、洗脳のよう。

 片桐さんを見やれば、眉を寄せ、険しい表情を見せていた。
 おそらく、同じ思いなのだろう。

「……だから……僕は、グループの跡継ぎになる事を当然だと思ってたし、兄さんも……今は、他のところに行っても、戻って来てくれるって思ってた。……大叔父さんは、社会勉強に出しているだけだと言ってたし……」

 翔陽くんは、そこまで言うと、大きく息を吐いて顔を上げた。

「でもっ……あのお見合いの後、大叔父さんが家に来て……僕達の事を交換条件に結婚しろと言われた時――……兄さん、僕を見て……あきらめたように笑ったんだ……」

「……え……?」

 今にも泣きそうな表情。
 それを、隠そうともせず、彼は続けた。

「――……そして……今まで、何を言われても撥ねつけてきたのに――……うなづいた……」

 翔陽くんは、唇を噛みしめ――涙をこらえている。
 私も、片桐さんも、ただ、それを見守るしかできなかった。
 そして、自分で高ぶった感情を収めた彼は、私を見やる。

「……その条件が、この先ずっと続く保証があるのであれば……結婚でも何でも好きにしろ、と……そう……言って……」


 ――ああ、やっぱり、江陽は、江陽だったか。


 私は、こんな状況なのに、妙に納得してしまった。

 ――……ヤツにとっては……家族を守る事――それが、最優先なのだ。


「――……それで、キミは、ようやく目が覚めたのかな?」

 すると、片桐さんが、翔陽くんにそう問いかけた。
 それに対し、彼は、目を見開き――力強くうなづく。

「――……ハイ。……兄さんの、あの顔を見て――……自分の考えに疑問を持ちました」

「……そう。……どうする、名木沢さん?」

「――え」

 片桐さんの問いかけに、私は、言葉に詰まった。
 ――江陽の選択を……もう、私は、納得してしまったのだ。
 
「――羽津紀さん、お願いします」

 翔陽くんは、街灯の明かりだけが辺りを照らす中、私に頭を下げた。
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