大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「――僕は、兄さんを犠牲にしてまで、自由になりたいとは思わない。……だから……羽津紀さん、兄さんを取り戻してください。籍を入れるのは、結婚式が終わってからだと思うので――まだ、間に合います」

「し、翔陽くん……」

 彼の、思わぬ言葉に、心は揺らぐ。

 ――間に合うなんて――言われたって……。

 私は、戸惑いながら、隣で見守っていた片桐さんを見上げる。
 だが、どこか、突き放すような口調で言われた。

「――名木沢さん、キミは、どうしたいの?」

「え」

「弟くんは、ああ言ってるけど――決めるのは、キミだよ」

「……っ……」

 言葉に詰まり、視線を逸らす。

 私だって――できる事なら、今すぐにでも会いに行きたい。
 ――アイツは、私のものなんだ、って、取り戻せるのなら。


 ――……でも――……。


 唇をキツく噛みしめ、大きく息を吐いた。

 そして、顔を上げると、不安そうに私を見ていた翔陽くんを見やる。

「――翔陽くん、アイツに伝えておいてくれるかしら」

「え」



「――アンタなんて――一生、大嫌い、って」




 結局、マンションまで送ってもらった私は、門の前で、片桐さんに気まずそうに言われた。

「――良かったの、あれで?」

 それに、視線を逸らさず、うなづいて返す。

 
「――……私なりの、精一杯の返事ですから」


 大嫌い。

 ――それは――私達にとっては、もう、大好きと同じ意味なのだ。

 江陽に伝わるなら――きっと、私の気持ちもわかるはず。

 ――たとえ、この先、交わる事の無い人生でも――私にとって、ヤツが一生特別なのは、揺るがないから――……。

 ……だから――アンタは、アンタの思うようにすればいい。


「――意地になってる訳じゃなさそうだね」

「ハイ……ご心配をおかけしました」

 片桐さんは肩をすくめ、苦笑いで返してくれると、手を上げて去って行った。
 私は、頭を下げ彼を見送ると、振り返り、マンションを見上げる。
 帰省する人が多い寮は、もう、ほとんどの部屋の明かりは消えていた。
 私も、明後日には帰る予定ではいるが、それまでは、一人だ。
 ――実家に帰ったら、きっと、問い詰められるだろう。
 そう思うと気が重くなるが、墓参りに行かない訳にもいかない。
 私は、自分の部屋に入ると、その場に座り込む。
 そして、小さくつぶやいた。


「――……こうちゃんなんて、大嫌い……」



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