大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「今日は、ありがとうございました。いろいろと勉強になりました」

 私が、そう告げて頭を下げると、彼は、苦笑いでうなづいた。

「――なら、良かった。また、行きませんか?」

「……勉強会、でしたら」

「じゃあ、ご都合の良い時、聞かせてください」

 そう言って、スマホを取り出す。
 ――連絡先は――。
 一瞬戸惑うが、聖に何かあった時の緊急連絡先にもなりうるのだ。
 私は、うなづいて、交換した。
「あ、あの……本当に、勉強会、ですよ?」
 思わずクギをさしてしまったのは――想真さんの表情が、思った以上に明るくなったような気がしたから。
 気のせいと言われようが、誤解されたくはないのだ。
「ハハ、お見通しですか。――でも、今日みたいな感じなら、OKっていう事ですよね?」
「……え、ええ……まあ……」
 彼は、ニコリ、と、微笑む。
「――長期戦は、覚悟しましょうか」
「え、あのっ……!」
 そして、そう言い残すと、私が引き留める間もなく、駅の中へと消えて行った。


 ――……本当に……大丈夫だったんだろうか……。

 私は、スマホの画面に目を落とす。
 交換したばかりの、想真さんの連絡先。

 ――その名前を、馬鹿正直に入れてしまうのは気が引けるが、仕方ない。

 ワールドスパイス、とは入れず、久保想真さん、とだけ入力し、新規で登録した。



「羽津紀ー!どうだったー⁉」

 マンションに帰ると、聖が図ったように突撃してきた。
 私は、玄関先で、恐る恐る尋ねる彼女に、苦笑いで返す。
「デートじゃなくて、同業者勉強会、ってトコ」
「……え??」
「想真さんが、気を遣ってくれて――まあ、いろいろな店回って、同業他社の商品とか輸入食品とか、いろいろ見て回って――」
 そう言いかけると、聖は、ホッとしたように微笑んだ。
「……そっか。――想兄ちゃん、本気か」
「……は?」
 人の話、聞いてた?
 そう返そうとすれば、先を越される。
「想兄ちゃん、アレで結構モテるんだけどさー」
「いや、見たままでしょうに」
 アンタのお兄さんよ。
 見目は良いし、モテるに決まってるじゃない。
 けれど、聖は、首を振る。
「うーん……ホラ、想兄ちゃん、ガタイ良いじゃない。圧を感じるコも多いよ?」
「でも、気遣いはできる方じゃない」
「アタシ、プライベートじゃ、彼女以外に気遣いする想兄ちゃん、見たコト無いけどー?」
「……え?」
 私は、キョトンとして返した。
 今日、彼が気遣うところしか、見ていない気がするのだが。
「羽津紀も知ってるじゃない。あの、人の意見を聞かない頑固者」
「え、でも」
「――だから、そんな想兄ちゃんが気を遣うって――本気だとしか思えないんだけど」
 私は、熱弁する聖の両肩を叩く。

「……あり得ないから、落ち着きなさい、聖」

「ええー……」

 すると、彼女は、不本意そうに頬を膨らます。
「あら、可愛い」
 そう言って笑うと、私は、両手で彼女の膨らんだ頬を押さえて、空気を抜いた。
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