大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 先日の家族との食事で行ったレストランとは、違う方向で、美しい料理の数々に、一瞬目を奪われる。
 案内された席は、隣り合って窓の外の夜景が綺麗に見える場所だった。

「――いやぁ、思ったよりもスゴイところですね」

「……ええ」

 苦笑いしながらうなづくと、想真さんは、ノンアルコールのスパークリングワインを口にしながら、私をのぞき込んだ。
 車で来たのだから、仕方ない。
 私だけアルコールという訳にもいかないので、彼に合わせた。

「――でも、元気ありませんね」

「え」

 その言葉に顔を上げ、彼の方を向くと、視線が合った。
 ――それは、何だか、落ち着かない種類のものだ。

「……き、のせい、です……」

 そう答えるが、彼は、ジッと私を見つめて言った。


「――先ほどの彼は、お知り合いですか?」


 瞬間、ひゅ、と、息をのむ。

 ――呼吸が不自然になっていく。

 心臓が――痛い。


「……羽津紀さん?」
 そんな私から視線を逸らさず、想真さんは続けた。

「――……お知り合い、というより――元カレ、ですか」

 私は、カシャン、と、持っていたフォークを滑り落してしまった。
 すぐさま、ウェイターに交換してもらったが――おそらく、顔は青ざめているだろう。

「……大丈夫ですか」

「……す、みま、せ……」

 震える声で、かろうじて答えると、不意に手が優しく包まれた。
 ――その手は、彼の身体に見合う、とても大きいもの。
 それに違和感を覚え、身じろぎするが、微動だにしなかった。

「――……部屋を取りましょうか……?」

「――え」

 私は、想真さんを見上げる。

「……彼を忘れたいなら――いくらでも、利用してください」

 ――それは……私と、そういう事をしたいという意味か。

 ――でも――。

「……私は……大丈夫、です……ので……」

 緩々と首を振って返すと、彼は、うなづいて手を離した。
「――でしょうね。心配しなくても、ちゃんと部屋(いえ)まで送りますよ」
 苦笑いでそう告げられ、苦笑いで返す。
「申し訳ありません」
「――気にしないでください。もとより、長期戦は覚悟してると言いましたよね?」
「え、そ、想真さん?」
 ニヤリとのぞき込まれ、硬直する。
 さすが、見目も麗しい聖の血縁者。
 その、色っぽく、魅力的な表情に、一瞬だけ見惚れてしまった。

「――彼の影に負けないように頑張りますよ」

「……そ……」

 彼はそれだけ言うと、再び食事に手をつけ始める。
 私は、戸惑いながらも、同じように口にした。

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