大嫌い同士の大恋愛 ー結婚狂騒曲ー
三日ほど経って、ようやく三分の一程、応募書類のチェックを終了した。
やはり、片手間にできる事では無い。
――が、通常業務を止める訳にもいかないので、毎日の残業は、もう、課長が申請しているらしい。
「名木沢さん、ひとまず、僕の方は終わったから、そっち、末尾からもらうね」
「ハイ。お願いします」
私は、隣にイスを持って来た片桐さんに、下の方から数十枚の書類を手渡す。
「やっぱり、一つ一つ見ていくのはキツいよね」
「ええ。でも、仕事ですから」
そう答えると、彼は、肩をすくめる。
「まあ、そう言ったら身も蓋も無いんだけどさ」
そして、軽く見るつもりなのか、その場でパラパラと持っていた書類をめくっていくが、数枚で手を止めた。
「片桐さん?」
私の呼びかけにも反応せず、彼は、しばらく考え込むと、下の方から書類を取り出した。
「……どうかしましたか?」
「――……いや、似てるな、って」
「え?」
片桐さんは、持っていた書類をデスクに並べる。
私は、それに目を向け、彼の言っている事を理解した。
「――そう、ですね。……新しいものだとは思いますが……形状も、中身も、コンセプトもそっくりですね」
「だよね。でも、応募者の名前が違うんだよ」
「じゃあ、たまたま、ですか。考えが似る事もありますし」
そう答えると、彼は、眉を寄せた。
「――コンペ、採用者には金一封出るよね」
「え、あ、ええ。……確か、そんな事が書いてあったかと……」
このコンペは、いつもの社長のノリではなく、サングループとのコラボ企画が流れたために、新しい企画が欲しいという、珍しく、正式な理由で開かれたのだ。
なので、採用者には、一万から三万円という、なかなかの金額が出るらしい。
「……質より量。どれかが採用されれば、もうけもの、ってコトかな。――応募者を調べる事も、必要になってくるね」
「え」
私は、彼の言う事に、眉を寄せた。
「……会社の人間を疑うんですか」
「――もし、仲間同士、それだけが目的で――あわよくば、という感覚で応募してきたのなら、だよ」
企画自体は、ほとんど同じもの。応募者の氏名を変えれば、それで一件の扱いだ。
でも、軽い気持ちで応募したのではないだろうか。
それに――。
「本当に、偶然、似通っているという事もあると思いますが……」
けれど、片桐さんは、表情を変えて、私を見やる。
「――こういうものが、ほぼ同じという事は、考えにくい。人の頭で考えるんだよ。どこかしらが違うのが普通だよ」
「――……でも……そういう案が、複数あるという事ですよね。希望が多いという事じゃないでしょうか」
できる事なら――社内の人間が、そんな事を考えると思いたくない。
今の私が……人を疑う事よりも、信じたい気持ちが強いからか。
――江陽を信じたいと思うように――……。
私の言葉に答えず、片桐さんは、デスクに置いた書類を手に取った。
「――……まあ、ひとまず、似通ったものは、まとめておこう。それをチェックして、対応を考えるよ」
「……承知しました」
私がうなづくと、彼は、苦笑いでうなづく。
「でも、納得してないよね?」
「……ハイ」
渋々、と、いった空気が表れていたのだろうか。
――それとも――彼には、隠し事ができないから、だろうか。
いずれにせよ、納得しきれていないのは、事実なのだ。
「――まあ、それが、キミの良いところだけどね」
「え」
不意打ちで言われ、目を丸くする。
片桐さんは、口元を上げ――穏やかに言った。
「――そういう、情に篤いところ、好きだよ」
「……片桐さん」
その言葉が、過去形ではない事が――引っかかってしまうけれど。
――過去にしなくては、いけないのだ。
やはり、片手間にできる事では無い。
――が、通常業務を止める訳にもいかないので、毎日の残業は、もう、課長が申請しているらしい。
「名木沢さん、ひとまず、僕の方は終わったから、そっち、末尾からもらうね」
「ハイ。お願いします」
私は、隣にイスを持って来た片桐さんに、下の方から数十枚の書類を手渡す。
「やっぱり、一つ一つ見ていくのはキツいよね」
「ええ。でも、仕事ですから」
そう答えると、彼は、肩をすくめる。
「まあ、そう言ったら身も蓋も無いんだけどさ」
そして、軽く見るつもりなのか、その場でパラパラと持っていた書類をめくっていくが、数枚で手を止めた。
「片桐さん?」
私の呼びかけにも反応せず、彼は、しばらく考え込むと、下の方から書類を取り出した。
「……どうかしましたか?」
「――……いや、似てるな、って」
「え?」
片桐さんは、持っていた書類をデスクに並べる。
私は、それに目を向け、彼の言っている事を理解した。
「――そう、ですね。……新しいものだとは思いますが……形状も、中身も、コンセプトもそっくりですね」
「だよね。でも、応募者の名前が違うんだよ」
「じゃあ、たまたま、ですか。考えが似る事もありますし」
そう答えると、彼は、眉を寄せた。
「――コンペ、採用者には金一封出るよね」
「え、あ、ええ。……確か、そんな事が書いてあったかと……」
このコンペは、いつもの社長のノリではなく、サングループとのコラボ企画が流れたために、新しい企画が欲しいという、珍しく、正式な理由で開かれたのだ。
なので、採用者には、一万から三万円という、なかなかの金額が出るらしい。
「……質より量。どれかが採用されれば、もうけもの、ってコトかな。――応募者を調べる事も、必要になってくるね」
「え」
私は、彼の言う事に、眉を寄せた。
「……会社の人間を疑うんですか」
「――もし、仲間同士、それだけが目的で――あわよくば、という感覚で応募してきたのなら、だよ」
企画自体は、ほとんど同じもの。応募者の氏名を変えれば、それで一件の扱いだ。
でも、軽い気持ちで応募したのではないだろうか。
それに――。
「本当に、偶然、似通っているという事もあると思いますが……」
けれど、片桐さんは、表情を変えて、私を見やる。
「――こういうものが、ほぼ同じという事は、考えにくい。人の頭で考えるんだよ。どこかしらが違うのが普通だよ」
「――……でも……そういう案が、複数あるという事ですよね。希望が多いという事じゃないでしょうか」
できる事なら――社内の人間が、そんな事を考えると思いたくない。
今の私が……人を疑う事よりも、信じたい気持ちが強いからか。
――江陽を信じたいと思うように――……。
私の言葉に答えず、片桐さんは、デスクに置いた書類を手に取った。
「――……まあ、ひとまず、似通ったものは、まとめておこう。それをチェックして、対応を考えるよ」
「……承知しました」
私がうなづくと、彼は、苦笑いでうなづく。
「でも、納得してないよね?」
「……ハイ」
渋々、と、いった空気が表れていたのだろうか。
――それとも――彼には、隠し事ができないから、だろうか。
いずれにせよ、納得しきれていないのは、事実なのだ。
「――まあ、それが、キミの良いところだけどね」
「え」
不意打ちで言われ、目を丸くする。
片桐さんは、口元を上げ――穏やかに言った。
「――そういう、情に篤いところ、好きだよ」
「……片桐さん」
その言葉が、過去形ではない事が――引っかかってしまうけれど。
――過去にしなくては、いけないのだ。